本物の味を見分ける目と舌

由布 蓮

第1話

刺身や握りが好物の妻の故郷は生まれも育ちも本州最北端の青森県。小さい頃から祖母に連れられて行くのは、小さな街のお寿司屋さん。だから魚の鮮度や味にはうるさく、結婚しても刺身や魚に拘り続けている。


お昼時に夫婦で入ったのは大手回転寿司屋さん。

直ぐに案内されてカウンター席に座ると最初に取ったのは赤貝だった。

「この赤貝。見た目は赤貝に見えるけど100円だと本物じゃないのよ」

「へぇー、これ赤貝じゃないの」

「純粋の国産なら100円では食べられないのよ。知らなかったの」

「知らなかったよ」

「100円で出すなら国内なら赤貝擬きで、国外なら中国産よ」

「赤貝擬き?」

「そうよ、どちらも赤貝に似ているけど違うの」

「それなら表示法の違反じゃん」

「でも赤貝なの」

「それなら違いが有るの」

「詳しくは分からないけど、昔、祖母に聞いた話では殻に放射線状に走る隆起した筋の数によって違うらしいの」

「えー、そうなんだ。よく知っているじゃないか」

「本物はねー、たしか42本前後らしいの。他は、それ以下らしいの。だから100円では食べられないの」

「本物を見たことは有るのかい」

「見た目は似ているけど筋まで数えたことがないの」

「と言うことは、この100円の赤貝は赤貝擬きなんだね」

「あなた、大きな声で話さないでよ。店の人に聞かれたくないから」

「ところで店員さんは、こんなことを知っているのかな。ちょっと聞いてみようかな」

夫がそう言うと妻は止めるように言った。

「そんなのよしなさいよ。私、恥ずかしいから」

「それなら本物を取って味比べをしようか」

すると妻は値段の高い赤貝と安い赤貝を注文した。

そして待つこと数分。コンベアーから流れるように2種類の赤貝の皿が着くと、それをテーブルに並べた。

見た目は同じだったが、違うのは皿の色だった。

2人で1貫ずつ食べ終わると、

「やっぱり値段の高い方が美味しいね」

夫が言うと、妻も昔を思い出したように肯いた。

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