寿司裁判 サバは二度サバかれる

枯れ井戸

「被告人、前へ」

 

重苦しい空気に拍車をかける裁判長の厳格な声が静寂に響いた。


「被告人、鯖は平成28年12月26日午後6時頃、東京都千代田区の『一本寿司』店内にて、同店舗の大将である大江戸源治氏を刺身包丁で殺害した。 間違いありませんね」


「……間違いありません」


 被告人は青魚特有の青い背をさらに青くさせて答えた。

 傍聴席が僅かにどよめく。明日の新聞の一面はこれで決まりだろう。

 

鯖が、人を殺した。


 動機は……なぜ人を殺すほどの感情を鯖が抱いたのか。

 傍聴席のどよめきを打ち消したのは被告人、すなわち鯖の悲痛な叫び声であった。


「私は捌かれたくなかった、捌かれたくなかったから大将を殺したんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 捌かれることを恐れた鯖は法によって裁かれた。

 皮肉な話である。

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寿司裁判 サバは二度サバかれる 枯れ井戸 @kareido

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