ケイside

第28話 女王の責め

 ノックの音の後で部屋に入って来たのは、桐子さんではなく、香織ちゃんだった。


「ケイさん、おねえちゃんの秘密を知っちゃったんでしょ~」


 桐子さんのベッドに腰を掛けた香織ちゃんが僕に言った。


 どことなく薄ら笑いを浮かべている。


『……どの秘密、のことかな?』


 そう言いながら僕は、顔から汗が吹き出しそうだった。



「私が最後、見ていた秘密」


 香織ちゃんの目が光り、僕の背筋は凍り付いた。


「安心して。ケイさんはまだ終わらせない。ケイさんには最後まで見届けてもらうから~」


『え? どういうことだ?』


 その僕の言葉に呼応するように、香織ちゃんの肩にカケルが出てきた。


「残念だけどケイさん、あなたの言葉はもう、おねえちゃんには届かない。カケルさんにも、だけどね~」


『…………』


 ひょっとして香織ちゃん、モンスターだったのか!


(違うわよ~ 明日にはわかるわ~)


 僕にテレパシーを飛ばしながら、彼女はにっこりと微笑む。


(もちろん、あなたの前では今まで通り振る舞ってもらうこともできるけど、どうする? カケルさん)


 これはまずい! カケルはすでに、僕の前で無反応だ。香織ちゃんの言葉にただうなずくだけ。完全にコントロールされている。隆一さんと隆二さんに伝えなければ!


 ところが実際にテレパシーを飛ばしても、彼らから返ってくる反応はなかった。


 本当は、それはすでに無駄だということが僕にはわかっていた。目の前の怪物が、そんな失態を犯すはずがないからだ。


(あなたの力では、この私は倒せない。満足させることさえできないんだもん~)


 そう言って彼女はほっぺたを膨らませる。


(どうする? おねえちゃんに形だけでもかわいがってもらう?)






『……はい……お願いします』




 その時、波夫さんの部屋から桐子さんの声が聞こえた。


「香織! ちょっと来てっ!」


 その言葉に合わせ、香織ちゃんが部屋のドアを開ける。


 そして出て行く前に、彼女はこちらに振り向いた。


(今後、しっかり私に口裏合わせてよね~ でないと、おねえちゃんの命はないからね~)


『…………』


 彼女は、部屋を出て行って、言った。


「おねえちゃんなぁに~」

 


 その後、桐子さんたちの、いつもの楽しそうな声が聞こえてきた。



 ひょっとすると……


 桐子さんはまだ、僕のことをまだ、必要としてくれるかもしれない……



 そう感じた自分がいた。そう希望を抱いた自分がいた。






 後になって、それが大きな誤りだったということに気づくのだが……

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