寿司ネタ【短編×2】

真尋 真浜

餅が寿司に言いがかりをつけた話

 正月も過ぎた頃、寿司は餅から話しかけられた。


「ようよう、寿司さんよォ」

「ど、どうしたんです餅先輩!? 体中にヒビ入ってますけど」

「季節の風物詩だよ、そんな事よりお前さ」


 目の座っている餅さんの物言いに寿司は嫌な予感がした。


「お前、なんでこの俺差し置いて名前に『寿ことぶき』なんて文字入れちゃってるの?」

「ええー……」


 返事に困る寿司。


「寿よ? ことほぎって風にも読むよ? めでたい祝いを表す文字だぞ、おい聞いてんのか寿司。先輩の話聞いてるのか、ああ?」

「せ、先輩、酒臭いです」

「暖房効いてる中に放置されて発酵してきてんだよ! そんな事より、お前のどこに祝い要素が含まれてるんですかねえ!」


 餅は悪酔いしていた。アルコール分は自身の身体から発生しているのだが。


「『お祝いなの!? わーい、僕、お寿司食べたい!』とか子供かっての! そんな刹那的突発祝事よりも年に一度の恒例行事に欠かせない俺にこそ『寿』の文字は相応しいんじゃねーのかよ、あああん!?!?」


 ヒートアップする餅先輩に寿司は呟く。


「ま、まあ自分の『寿司』って名前は、当て字ッスから……」

「……寿司?」

「自分の名前、本来は酢飯で出来てて酸っぱいから『し』だったんスよ」


 寿司の由来は諸説あるが、酸っぱい味から名付けられた説が有力である。ちなみに江戸中期の話らしい。


「で、字面が何だか変て言われて、にめでたそうな字を使っただけなんスよ……」


 つまりお寿司は別にめでたい食べ物として作られたわけではない。たまたま選ばれた代わりの字がめでたそうなだけだったのだ。

 自らの命名の秘密を打ち明けた寿司は落ち込み、その様子に餅の酔いもすっかり冷めてしまった。


「その、なんだ、寿司……一杯やるか? 奢るぞ?」

「……ごちそうさまッス、先輩」


 人の名前に歴史あり。人でなくても歴史はある。

 めでたそうな字を使っただけなのに、今では本当に祝いの席を飾る食べ物になっている。


 これが因果の逆転か、って言い回しすると中二病っぽくなって面白い。

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