おすしおすししてる

@hattorist

おすしおすししてる

「おすしおすししてる。回転してない方の」

彼女はそう呟くと、コーヒーを口に含んだ。僕は混乱した。


今僕は、彼女に別れようと告げた。正直、知性のレベルが合わないと思ったのが決め手だった。僕は彼女が時折見せる非論理的な物言いが耐えられなかった。


しかし彼女の返答は予想外だった。というか意味不明だった。

「あなたの話はいつもそう。おすしおすししてるの。回転してない方のね」

僕が呆然としていると、彼女は再度そう言った。澄ました顔をしているが、サ行が連なってものすごく言いにくそうだ。


「ちょっと意味がわからないんだけど」

別れ話に同意しているのかそうでないのかすら定かでないので確認すると、

「あなたにはわからないだろうね」と言って彼女は嘲笑した。

どうせ低俗なバラエティ番組から拾った言葉なのだろう。それを知らないことなど僕にとってはなんら恥ではない。

「私が考えた言葉だし」

思わずコーヒーを吹き出しそうになった。そんなもんわかるわけがない。


「回転しない寿司ってことはつまり、高等だってこと?」

「すごい自己肯定感。ふふっ」

彼女がまた嘲笑する。なんだか少しイラッとした。寿司に高級でウマい以外のどんな解釈があるというのだ!

「まあ、半分はあってる。あなたは知性的で高レベルな話し方をするってこと。でもそれだけじゃない。回転してないっていうのは……」

「頭の回転が鈍いってこと?」

躍起になって彼女の言葉を遮ると、彼女はゆっくりと首を横に振った。

「回転寿司じゃないってことは、ガリが取り放題じゃない。つまり一人用ガリ、ひとりよがり」


僕は驚嘆した。そんなことをこの短時間に、しかも別れ話を聞きながら考えていたのか? どうしようもなく愛おしさが込み上げてくる。そうだった、僕は彼女のこういうアホなんだか天才なんだか計り知れない知性が好きなのだ。


「ごめん、キミの言うとおりだよ。回転寿司でも行くか」

「ガリ取り放題!」

嬉しそうに彼女が叫んだ。

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