寿司は涙を流さない

切り裂きジョニー

　俺はジョニー。かっぱ巻きだ。

　言わずも知れた話だが神って奴は差別主義者（レイシスト）のクソったれだ。

　『寿司は皆（みな）平等』なんて嘘さ。回転寿司を見やがれ。俺らは生まれながらに皿の色まで差別されてんだ。

　若い頃はそんな常識すら解らなかった。俺もいつか立派な中トロになれると夢見てた。だが気付いた。かっぱ巻きは中トロになれないとな。

　それでも諦められなかった。中トロになれずとも努力で中トロを超えれると信じた。だから必死に努力した。生クリームで身を飾った。冷凍庫で氷菓子（シャーベット）になった。人気者の甲虫（カブトムシ）に擬態した。だが俺は食われなかった。中トロの魅力には勝てなかったのさ。

　挫折した俺は酒や薬物（ドラッグ）に手を染めた。そんな時に出会ったのがウニ軍艦のイザベラだ。二貫（ふたり）が恋に落ちるのに時間は要らなかった。

　やがて愛の結晶（ベイビー）が生まれた（ボーン）。胡瓜（きゅうり）を添えたウニ軍艦。

　幸せの絶頂だった。だが長くは続かなかった。

　イザベラとベイビーがクソったれに食われちまったのさ。また俺だけが食い残された。

　俺は復讐を決意した。胡瓜（きゅうり）をナイフに替えて、かっぱ巻きからナイフ巻きへと変貌した俺は獲物を求めて闇夜を駆ける。それが今の俺、切り裂きジョニーだ。

　さぁ、俺を食ってみろ！　その瞬間お前を切り裂くぜ！

　だが復讐は失敗した。誰も俺を食わなかった。俺じゃ食欲をそそられねぇのか？　もし俺が中トロなら、ウニ軍艦なら……。畜生（ガッデム）！

　全てを失った俺には復讐心すら残らなかった。もうチョコや莓（いちご）ジャムで身を飾る努力も止めた。俺はもう普通（ただ）のかっぱ巻きだ。

　そんな俺を不意にクソったれが口へ運ぶ。オイオイ、今さら俺を食おうってのか？

　そこで俺はやっと自分の間違いに気付く。大切なのは出生じゃなく心だったんだ。嫉妬や復讐で心を腐らせた寿司なんてクソったれでも食いたくなかったってオチさ。

　俺の体が租借される度に心も解きほぐれていく。こみ上げる想いに目頭が熱くなるがグッと堪えた。涙なんか流したら塩味がキツくなっちまうからよ。