中編

 あっという間にお昼が過ぎ、時計の針は午後の時間を指していました。

 仕事に行ったOたちは、一体どうなったのでしょうか。


「な、何だ!?」

「キャー!あ、あれ!!」


 Oが務めている会社は、大変な事態になっていました。

 会社の人たちが指を指している方向には、廊下に佇んでのんびりしているOの姿があります。どうやら午後の仕事も面倒臭がっているようで、一旦休憩のようだと思いきや、彼らが指さすもう一方の方向にもOの姿があります。服装も髪型も、飲んでいる缶コーヒーの残量も、何もかも全く同じです。突然会社の仲間が3人になったのを見て周りの人たちが驚くのも当然でしょう。

 ですが、Oの数はそれどころではありませんでした。

 エレベーターを開けば、そこには定員まで一杯になった笑顔のOが10人。エスカレーターもどの段もお揃いのOL服に身を包んだ彼女でごった返し、会社の人たちが入る隙もありません。さらには職場のみならず、食堂も未だに大量のOが並び続け、次々に席を埋め尽くし続けているのです。ビルが次々にOで埋め尽くされ続けているこの異常事態、一体どういう原因があるのでしょうか。


会社に来てすぐ、仕事に飽きた身代わりのOは、さらに新しい身代わりを出して仕事を代わってもらいました。ですが、その新しいOもまたすぐに仕事に飽きてしまい――。


「誰か代わってくれないかな……」


 ――そう呟くや否や、すぐに新しいOが現れて――。


「代わりにやってあげる♪」


 ――ですが、そのOもまた短時間で仕事に飽きてしまい――。



「誰か代わってくれないかな……」


 ――そう呟くや否や、またまた新しいOが現れて――。


「代わりにやってあげる♪でも面倒臭いな……」

「代わりにやってあげる♪でも面倒臭いな……」

「代わりにやってあげる♪でも面倒臭いな……」

「代わりにやってあげる♪でも面倒臭いな……」

「代わりにやってあげる♪でも面倒臭いな……」


 そう、次々に身代わりのOは新しい身代わりを創り出し、仕事を放棄し続けたのです。

 しかも、Oの数が増える要因は会社のあちこちに存在しました。エレベーターの順番待ちを嫌がれば代わりに待ってくれる新しいOが現れ、エスカレーターの混雑に不機嫌な顔をすれば代わりにエスカレーターに乗ってくれるOが出現し、食堂で待つ時間を面倒臭がると代理で順番待ちをしてくれる新たなOが現れ続け、まるでネズミ算のように次々に新しい彼女が現れ続けてました。その結果、会社のあちこちが彼女の体でぎゅう詰めになり始めました。

 そして、その混雑の中で彼女たちは少しづつ同じ事を考え始めたのです。誰かこの混雑をに解消してくれないか、と。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 社内が大変な状況になっている一方、会社の外もまた大変な事態を迎えていました。

 Oがいつも務めている会社の近くには、スイーツ店や洋服屋、アクセサリー店が並ぶ女性向けのお洒落な通りがありました。いつもOは合間を縫ったり仕事をサボったりしながらその場所へ向かい、様々なものを購入しては町を楽しんでいたのです。

 そして、それは身代わりとして誕生したOにとっても同様の事。しかも別の自分が変わりに仕事をしてくれているので、様々な場所へ行きたい放題です。


 その結果、Oはさらにその数を増やしていきました。


「バニラにチョコにイチゴ味か…どれも食べたいな…」

「「うふふ、私が代わりに食べてあげる♪」」


 アイスクリームの屋台のお兄さんは、突然同じ顔の女性が2人も現れてびっくり。さらにお金を貰った途端、その後ろにまた同じ顔の女性が次々に現れるのを見て腰を抜かしてしまいました。


「どのアクセサリーを買おうか悩んじゃう…」

「「「「「「「「「「私が代わりに買ってあげる♪」」」」」」」」」」


 次々に群がり始めた数十人の彼女のせいで、アクセサリー店の商品はあっという間に無くなってしまいました。それはまるで、イナゴが穀物を根こそぎ食いつくすかのようでした。


「あの服も欲しいな…高いけど」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「私が代わりにお金をだしてあげる♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 その言葉と同時に、あっという間に店の中を埋め尽くした数百人のOが、洋服店に陳列されてあった高級品から安物まであらゆる服を買い漁ってしまいました。



 嫌なことや面倒臭い事、自分以外の誰かにやって欲しい事を次々に代わりのOに任せていくに従い、この通りもまたピンクの服を着た何百何千もの同じ女性でごった返してしまいました。欲望を露にしながら様々な物を買い占めるうち、欲しい物が無くなったり新たに欲しい物が思い浮かんだOはバスに乗り込んで遠くへと向かい始めました。勿論その時も、自分の代わりに遠くへ行ってくれる新しいOを生み出しながら。


「うふふ、代わりに遠くまで行ってあげる♪」


 ですが、その車内でもまだ彼女の不平不満は止まりませんでした。午後の時間帯でも今日は普段より混雑気味で、途中のバス停で乗った彼女はそのまま立ち続けるしか無かったからです。しかもそんな状態で信号待ちが連発し続け、彼女の頭の中はイライラで満ち溢れ始めました。

 早く目的地に着きたいし、早くどこかの席に座りたいのに、誰も自分の『代わり』になってくれない――。


「誰か何とかして……」


 ――そんな思いをOが言葉にした瞬間、バスの車内放送から聞き覚えのある声が響きました。



『うふふ、私が代わりに運転してあげる♪』


 バスの運転席に座っていたのは男性の運転手では無く、OL服に身を包んだOでした。

 ですが、車内の異変はそれだけに留まりませんでした。


「「「「「「「「「「「私が代わりに座ってあげる♪」」」」」」」」」」」」」」」


 1人分の座席を残し、老若男女が乗り込んでいたバスの車内は全て全く同じ姿形をした笑顔の女性で埋め尽くされてしまったのです。


 身代わりを望めば別の自分が現れる――流れ星に叶えてもらった願い事は完全に暴走を始めていました。頭の中で嫌なことや面倒な事を思い浮かべるだけで新たなOが現れ続けるだけでは無く、別の生き物ですら面倒だと思えば新たなOの身代わりと化すまでに至ったのです!


「買いに行くの面倒臭いな……」

「代わりに買ってあげる♪」


「狭いから抜け出したいな……」

「代わりに抜け出してあげる♪」


「面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」面倒臭いな…」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」代わってあげる♪」……

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