第40話   「地獄」その5

 宇宙海賊「マ・オ・ゾク」が率いる探検隊は、深い森の中に入って行きました。


『親分、森は海賊の守備範囲からは、はずれてますぜ。』


 部下の一人が言いました。


『ばっかもん。宇宙海賊は宇宙のすべてが守備範囲だぞ。』


『へえ、すいません。「木を見て森を見ず」でやす。』


 部下はあっさりと謝りました。


 この部下は、「ことわざ」を付録に付けて話すのが大好きでした。


 でも、こういう、おかしな会話が安心してできるところが、この「宇宙海賊マ・オ・ドクと・・・なんとかかんとかと、愉快な子孫たち」の良いところだったのです。


『しかし、ここは、いったい何なんですかね? 木星の中にしちゃおかしいし、「地獄」とかですかね。』


『ばっかもん、まだ死んじゃいないぞ。』


 「マ・オ・ゾク」はその部下のほっぺをつねりました。


『いてて、生きてやす。すいません。でも、「地獄は壁一重」ですぜ。』


『ふん。「地獄も住処」さ。』


『「地獄極楽は心にあり」ですな。」


 マ・オ・ゾクの腹心の部下、「サモン」が付け加えました。


 でも、本当にここが「地獄」だとは、誰も信じてはいませんでしたが。


『し! 何か聞こえました。ほら。あれ・・・』


 「サモン」が口に指をあてて言いました。


『どかん! どかん! どかん!』


 と、確かに聞こえて来ます。


 それも、次第に音が大きくなってゆきます。


『なんだ。あれは。足音か❓』


 マ・オ・ゾクが言いました。


『みんな、樹の陰に隠れろ。』


『どかん! どかん! どかん!』


 は、どんどん大きくなり、やがて地面が揺れ出しました。


『あわわ!』


 誰かが言いました。


『しっ!』


 「サモン」がささやきました。


『どかん!  どかん! どっかーん!』


 そうしてついに、高い樹の間から、恐竜の大きな頭が現れたのです。


『おわ!』


 また誰かが言い、仲間から口を手で塞がれました。


 巨大な恐竜は、何かを感じたかのように、あたりを見回していました。

 しばらくそうしてから、恐竜は、また歩き始めました。

 それから、みんなの後ろ側に行ってしまいました。


『やれやれ。』


 樹の陰に一人で立っていた、ことわざ好きの隊員が言いました。


『まったく、なんだあれは。ははは、目はよくないらしいですなあ、ははは・・・うん?』


 他の隊員たちが、周りの樹の影から、何か恐ろしそうに合図しています。


 指を少しだけ出しながら・・・。


『は?・・・・うわ! おぎょわー!』


 その部下の後ろに、大きな「目」がありました。


 恐竜の目です。


『ぎゅわー!』


 恐竜が叫びました。


『逃げろー!』


 マ・オ・ゾクが叫びました。


 全員が走り出しました。


 ところがさっきの部下は、逃げ足が、これまたとても速いのです。


 もう一番前にいました。


『ばか。おまえ最後だろ。』


 マ・オ・ゾクが言いました。


『いえいえ、お先に行きます。』


 どかん! どかん!


 と恐竜が追いかけてきます。


 一人の部下が、木の根っこにひっかかって転びました。


『ぎゅおー!!』


 恐竜が、大きなお口で、その部下を食べようとしました。


『きゃー!』


 そこに、別の甲高い叫び声がしました。

『きゃー!』


 その声と共に、太い、大きな、ぽちゃぽちゃの手が現れて、恐竜をぶんなぐりました。


『ぎょわー!』


 恐竜が森の樹の中に、ばりばりと音を立てながら倒れました。


『ありゃあなんだ?』


 マ・オ・ゾクが立ち止まって言いました。


 他の皆も、その何かを見ました。


『あ、赤ちゃんよ!』


 ドクター「ヤー」が叫びました。 


 恐竜は、歯が立たないと思ったのか、そのまま逃げてゆきます。


『きゃー!』      🚼


 大きなおしめをした、巨大赤ちゃんが叫びました。


     🌸   🌸   🌸   🌸   🌸


 「ぱっちゃくん」は、池のほとりで、ひとり立ったまま、まだ大きな声で泣いています。

 でも、だれも来てくれませんでした。

 霧はどんどん深くなり、回りは何も見えなくなりました。


 ところが、やがて、声が聞こえてきたのです。

『もう、うるさいなあ。誰よ、まったく、お饅頭がまずくなるじゃないの。』

 

 「ぱっちゃくん」にも、その声が聞こえました。


 そうして、それは聞き覚えのある声だったので、「ぱっちゃくん」は、いっそう大きな声で泣きだしました。


『わあ、うるさいうるさい。あれ、その泣き声、どっかで聞いたような?』


 それは、なんと「幸子さん」の声だったのです。


 それから、深い霧の向こうの池の中から、大きな手が生えだしてきました。


 その指には、巨大な爪が生えていました。


「ぱっちゃくん」は、もうびっくりして、泣きながら逃げ出しそうになりました。


 でも、その手は、「ぱっちゃくん」の背中をぐいっとつかみ、それから池の中に引きずり込みました。


 「幸子さん」が「池の女神様」だなんて、「ぱっちゃくん」は全然忘れてしまっていたのです。



     🐼   🦖   🐻








 











 






 













 











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