第5話 宇宙の迷子

鴇崎鶫ときさきつぐみ(仮名)は宇宙の孤児である。母星はまだない。

十年ほど前、この惑星(地球のことだ)へと漂着した彼女は、ほとんどの記憶を失っていた。ただ一つ確かなこと。それは己がかつて宇宙を駆けめぐっていたという事実。それが可能なだけの能力を、彼女の肉体は備えていたのである。だから、自分の起源が少なくとも地球由来ではない、という事だけははっきりしていた。今のこの星のテクノロジーでは鶫を生み出すことは出来ない。のみならず、鶫のような生命体が自然進化の先に生まれたという証拠もなかった。消去法として、自らは地球外由来であると確信するに至ったのである。

自分が生物にしろ、機械にしろ、ここにいる以上は仲間がいるはずだった。これほど複雑で高度なものがいきなり沸いて出るはずもないから。もちろん、それは鶫が種族の最後の一人である可能性を否定するものではないが。

とはいえ彼女は途方に暮れた。仲間を捜すという選択肢が提示されたわけだが、控えめにいっても困難極まるからである。宇宙は広い。あてどなく探すのは退屈だろうし時間もかかる。

そこで彼女は考えついた。人に手伝わせればよいではないか。

幸い、地球には先住民がいた。彼らは熱心に天体を観測し、科学的知見を積み重ねている。

彼らを育成しよう。

何百年かかかりそうだったが問題ない。ひとりで黙々と観測機器を作りながら仲間を捜すのだって似たようなものである。

決まれば後は早かった。巨体では人間に紛れられぬから、人間そっくりのサイバネティクス連結体遠隔操作型ロボットを作った。かなりの自己判断能力を持つ傑作である。

潜り込む先は日本とした。何事にも非効率的で、書類の偽造が簡単だったからである。さらには研究者の待遇がすこぶる悪い。

好き勝手にいじくりまわしても良心の呵責をあまり覚えずにすむ。今以上悪くはならないだろう。

そうして人脈作りとのため、潜り込んだ高校───人間を介する転入手続きが一番の難関だった───で。

鶫は再会したのだった。初めて言葉を交わした人間。すなわち遥と。

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