お題作品

月橋経緯(つきはし・けいい)

昔話【お題:足跡/指/ハンガー】




 なんとそこにいたのは、あのとき海に沈めたはずの浦島太郎(仮名)だったのです。めでたしめでたし。

 さて次のお話にまいりましょう。

 この世界には足跡と指とハンガーがない。と想像してみてごらんなさい。

 ところでこれを読んでいるあなたは、足跡と指とハンガーのことが大好きで仕方がないとします。だからあなたは世界にその三つがないなんて想像しただけで死んでしまうでしょう。絶望で消えてしまいたくなります。

(中略)

 すでに死んでいた読者もこれで復活します。よかったですね。

 でも世の中そう甘くはないでしょうから、やはりあるのは足跡だけということにします。指とハンガーは幻想でした。これで半死半生状態。

 というのもかわいそうなのでやっぱり三つともあることにします。よかったですね。つまり何が言いたいのかというと、あっいま「何が言いたいのかというと」と書きましたが私は率直に申し上げて、こういう一言でまとめるとどうだ、みたいな言い方が嫌いです。結論や結果だけを求めて利便性や手軽さだけにとらわれる者は破滅せよ。とは言いませんが、やはり破滅せよ。

 話はそれましたがつまり無駄なことばなんて実はないんだということかもしれないし、またはその逆かもしれないということです、ということを私は言いたいわけではないんですよ私は。意味はありません。意味に意味は。

 話を戻しますと、私は足跡と指とハンガーの存在を自由にコントロールできるわけなのです。あなたの命は私の意のままということになります。

 ここまでのお話で、世界には足跡と指とハンガーがあるのだ、ということが証明されました。よかったですね。

 だから足跡と指とハンガーがいました。これらはこのお話の登場キャラクターということになります。

 まず、足跡がいました。足跡は自分に合う足を探しています。足跡が足跡だけでいるというのもおかしいので、足が必要なのです。

「足やあい。どこにいるんだい。おうい足やあい」

 と足跡は足を探しています。しかしなかなか合う足とは巡り会わないわけであります。それは足跡がやや歪んだ形をしているせいで、これに合う動物・器物その他なんらかのブツとは出会わないのです。しばらく行くと、足跡はあるものと出会います。指です。

 指も、じつは足跡と同様、はじめにこの世界にいたものの一つです。あとご存じのようにもうひとつ、ハンガーもいたのですがそれはもうすぐ出てきますので出てきたときに出ます。

 さて指です。指は良いものです。指は自分に合う手を探しています。しかしなかなか合う手とは巡り会わないわけでして、これ以降は前と同じなので省略します。

 で、またしばらくいくと今度はハンガーに出会います。と読者は思うでしょう。しかしそれは大当たりで、ハンガーに出会います。出会いました。

 ハンガーは自分に合う服を探しています。ハンガーはべつに歪んでいるわけでもありませんが、とにかく服が見当たらないので困っているわけです。

 というわけで三つのものがめでたくそろったのでした。

「手やあい。どこにいるんだい。おうい手やあい」

「服やあい。以下略」

「足以下略」

「略」

「」

「」

 書かずともわかることは書かないものです。だいたい言葉などそもそも無駄なものでして、異議あり! 言葉はなくてはならないものです! なにをいきなり。証拠でもあるのか。人は言葉なくして生きてはいけないのです。戯言をぬかしおる。だいたいお前はいったい

 で三つのものたちは結局、幸せに暮らしましたとさ。おしまい。

 その経緯をこれから書こうと思います。さようなら。(了)

 読者もおそらくはご存じかと思いますが、お話はそろそろクライマックスを迎えようとしています。こののち、足跡は舞踏会に行き、そこで王子さまが「この足跡に合う足をもった女と結婚したい」と言い出したりして一悶着あったあと解放されたりします。指は指輪を見つけますが、指だけではするりと抜けおちてしまうので残念がります。ハンガーは竿を見つけて、そこに引っかかって昼間のひとときを過ごし、ああもし自分に合う服が見つかったら、洗濯のあとこうして干されるんだろうな、などと考えます。あとこんなところに書くのもどうかとは思いますが、ここに書いている話はすべて嘘です。というのは嘘です。そんなことがあって、異議あり! お話と関係のない内容です。異議を認めます。

 足跡と指とハンガーは人体模型と出会いました。人体模型は言いました。

「じゃーん人体の神秘」

「異議あり」

「意義を認めます」

「まだ何も言っていないぞ」

「はて」

 足跡たちは自分たちが探しているものについて人体模型に話しました。すると人体模型は言いました。

「じつは私にも探しているものがあってね」

 人体模型が

「探しているものというのは」

 それが模しているところの

「人間というやつ」

 でした。足跡と指とハンガーはそれをきいて、胸を打たれるようでした。自分たちの探しているものも、結局はその人間というものに行きつくだろうことに気がついたからです。おや雨が降ってきたよ、かゆい快楽。

 ここでもう一度、探しているものをおさらいしておきますと、足跡は足を、指は手を、ハンガーは服を、ということになりますが、つまりそれらは最終的には人間につながるだろうということになったわけですぴよ。

かくしてこの四名のあいだには協力関係ができあがったわけですでした。最終にして共通の目標が明確になったのです。

 しかし問題は、この世界には人間が存在しなガガガガいということでした。存在しないというのは、もっと簡単に言えば、一人もいないということです。

 そこで人体模型が言いました。

「ないなら創れば良いではありませんか」

 ほか三名もこの提案を受け入れ、人間を創造することになりました。見本として人体模型が使われることになりました。

 ここで豆知識ですが、旧約聖書という本に、神がご自身の姿に似せて人間をお創りになったことが書いてあります。


(これ以降、文字がかすれて判別できない部分あり)


 □□□□□□□□□□□□人□□□。異議あ□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□。(中略)□□□□□□

(中略)

(中(□略)略)

 この人体模型は雄でした。彼は言いました。

「彼女ほしいなあ」

 ということでまずは雌の人体模型が創ら□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□(略)

(中略)

 イよ愛ンろアこウ情びト

(以下略)


 じゃーん人体の神秘。

 こうしてあなたが生まれました。なあに恥ずかしがるようなことではありませんから堂々としていなさいな。

 いまあなたがこうしてこの昔話を読んでいるのも、足跡と指とハンガーと、あと人体模型カップルのおかげなのです。今あなたの足が地面に残している足跡が、じつはこの物語の足跡なのです。同様に、今あなたの手に嵌まっている指が、略。今あなたの服をかけているハンガーが、略。

 あなたがあなたでいるために、どれだけ多くの運命とかだれかの努力とか偶然とか時間とかあとなんかよく分からないものとかが関わっているのか、想像してみてごらんなさい。あなたは矛盾であり無駄であり、そしてとてもすばらしく愛すべき人なのです。

 これがあなたの昔話です。

 おしまい。

 さて次のお話です。あるところにおじいさんとおばあちょっと待ったあるところというのはどこかは分からないというかつまりあえて限定はしないけれどもどこかとにかくあるところという意味でのあるところに、おじいさんとおばあさんが、こう書くと読者はそうか爺と婆がいたのかと思うでしょうがじつはそんなことはなくじいもばあもいなくて、ついでに言うとあるところという場所も実際にはないところでして、だからこの長い文にはとくに書く意味などなくて、そのあたりは今までしてきたいろんな話とも共通しているのですが、とにかく、実際にはありもしない存在しない場所におじいさんとおばあさんがこれまた存在しませんでした、というタイプのお話をこれからしようと思いますが、すみません急に私気分がすぐれないというかなんというか書く気がなくなってきたのでこのあたりでもうやめようかと思うのですが、でもまあそういうわけにもいかないので続けさせていただきまアッ、アッ


(了)

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