誰にもけして読まれることのない部分
ちびまるフォイ
絶対に気付かれないオチを見破れ!!
「ああ、ようこそカクヨムプロモーションセンターへ。
ここではあなたの作品をみんなに届ける手助けをさせてもらいますよ」
山田という男はにこやかに感じ良く接した。
「サクラでレビューするとかじゃないですよね?」
「ハハハ。あのですね、うちはそういうことはいたしません。
きちんと、全力で、多くの人に届けられるようにPRするだけです」
「……じゃあ、お願いします」
作品数はゆうに100を超えた俺のアカウント。
けれどレビュー件数はわずかの一桁。
1作品に★がつくことなんてまれ。
つくものなら赤飯炊くレベルの大ごとだ。
そんな底辺作者の俺がプロモーションを依頼するのも、同じ境遇の人ならきっとわかってくれるはずだ。
数日すると、効果は一気に現れた。
100,000,000PV
★978,554
「な、なんじゃこりゃああ!?」
「どうです? これが私どもの力ですよ」
もはや書籍化待ったなしの大人気作品としてランキング入りを果たした。
ステマでもやったのかと粗探ししてみても、まるで見つからない。
「いったいどんな魔法を使ったんですか!?」
「普通にプロモーションしただけですよ。
コソコソやると批判されるだけですからね。
大々的に、今この作品がアツイって宣伝したんですよ。ほら記事にもなってる」
「記事ぃ!?」
ネットを見てみると、ネットニュースで俺の作品が紹介されていた。
アプリゲームの広告にも俺の作品へのリンクが作られていたり、
テレビCMすらうたれていることにはもう開いた口がふさがらない。
「ありがとうございます!! こんなにも俺の作品を愛してくれて!」
「いえいえ、別にいいんですよ」
「ちなみに、俺の作品のうち、お気に入りってなんですか?」
「ないですね」
「え」
「読んでないんですよ。うちも忙しいんで」
「あ、はぁ……そうなん、ですか」
少し寂しさも感じたが、山田の仕事も理解はしているので黙っていることにした。
変にへそを曲げられて今のこの人気がかすみでもし始めたら大変だ。
それからも俺の人気は雪だるま式に大きくなって、
書籍化はもちろん、漫画にアニメ化、はてはミュージカルまで行われることに。
とくに応募していなかった新人賞を総なめし、実写映画化の話まで舞い込んできた。
「やっぱり俺の小説は正しかったんだ!!」
家には処理できないほどのファンレターと仕事の依頼が飛び込んでくる。
いつの間にか俺の呼称は「~先生」と呼ばれる。気分がいい。
「ところで、先生! 新作はいつですか!?」
「あ、ああ……新作ね……そうだね……」
ファンに言われて冷汗が流れた。
最近はバラエティ番組などへの出演ばかりで小説を書いていなかった。
「先生の新作なら絶対読みます! だって面白いに決まってます!!」
「きっ、期待してて待っててくれ……」
久しぶりにパソコンの前に座って、白いページとにらめっこが始まる。
書いては消し、書いては消し、書いては消し……。
「ぬああああああ!! だめだ!! 書けない!! ちっとも書けない!!!!」
自分の名前がここまで重荷になると思わなかった。
評判なんて気にせず書いていた昔が本当に懐かしい。
今やどういうのがウケるのか考えては挫折して筆が進まない。
「そうだ、いったん俺のプロモーションを止めてもらおう。
そうすれば執筆活動がやりやすくなるにちがいない」
さっそく山田のもとを訪れた。
「ええ、わかりました。では、プロモーションを打ち切ります」
「よかった。これで名前負けを心配することもないぞ」
宣伝されなくなったことで、静かな日々が訪れた。
誰も自分を気にしなくなったので執筆作業がはかどる。
完成した作品は自分の中でも名作と呼べるほどの完成度だった。
すぐに書店へ並べてもらったが、ぴくりとも売れない。
「な、なんでだ!? なんで売れないんだ!?」
店員をつかまえて陳列場所をもっと売れる場所に移動してほしいと頼んだ。
「……ああ、あの作者の小説ね。なんかもうブーム終わったでしょ」
「え゛……」
「テレビでもネットでも見ないしね。ってことはつまらない作品でしょ」
宣伝がなくなったこと=不人気。
こんな図式があるなんて思ってもみなかった。
ふたたび山田のもとを訪ねて、再度告知をお願いした。
「ムリです」
「えええええ!? なんで!?」
「うちは一度打ち切った人には二度と関わらないんです」
「そ、そんな……」
門前払いだった。
とぼとぼと帰っているとプロモーションセンターの女がやってきた。
「ちょっと時間ある? 話したいことがあるの」
ふたりでやってきたファミレスで女は話の続きを語り始めた。
「あなたにだけ話すわ。実は私たちはプロモーションセンターなんかじゃないの」
「はい!?」
「実は、カクヨムで駄作を量産する作者の芽をつむのが本当の目的。
一度甘い汁を吸わせた後で一気に忘れ去られれば、もう挑戦する気にならないでしょう」
「……そうですね。俺も創作意欲をぼっきりと折られてました」
「それが狙い。作品を保存するサーバーだってタダじゃないから。
あなたみたいな量産作者を少しづつ削るために動いていたの」
「でも、どうしてそれを俺に話したんですか……?」
「あなたは一発屋じゃないって思ったから」
その日を境に俺は変わった。
書いて、書いて書きまくった。
しだいに失われていた人気はだんだんと回復して、実力派作家として紹介された。
「あのとき諦めていたら……」
書籍化して作家デビューした人もたくさんいたがすぐに消えた。
作家として必要なのは文才でも、宣伝力でもない。
継続して書いていける力なんだ。
「ありがとう、プロモーションセンター!」
プロモーションセンターのおかげで、本当の作家になることができたんだ。
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あ、ちなみに小説タグに入れていたオチ気付きました?
誰にもけして読まれることのない部分 ちびまるフォイ @firestorage
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