radiation 子宮臨界物語
緑茶文豪
第1話 誕生
爽やかな風が風鈴を揺らし、女性のスカートをめくるような涼しい季節。秋から冬にかけた時期に1人の女の子が産まれた。夫の章人は病院からの知らせを聞いて仕事が終わってから急いで病院へ向かった。どんな子なんだろう。どんな顔だろう。どんな匂いだろうか。どんな仕草だろうか。自分も人の親になるのかと、しみじみ思いながら病院へ着いた。受付を終わらせ病室へと向かい、妻の愛に労いの言葉をかけて赤ちゃんをみに行った。ものすごく可愛いかった。まず、おかんとおやじに連絡をして喜びを分かち合った。よし、明日から頑張るぞ! そう思えるほど今日は最高の1日だった。
今日は産後の愛と娘の玲奈を連れて家に帰る日だ。俺はあの病院へ向かって受付をしていると担当医が話したい事があると部屋に呼ばれた。 開口一番、妻は集中治療室にいると伝えられ、面会する事さえできなかった。ドラマで見たようなレントゲンや訳のわからん文字のカルテが机の上に散乱している。医者は重たい雰囲気を醸し出しながら口を開いた。
「あなたの奥さんは腸や胃の粘液の細胞が再生されていません。私達も不思議に思ったので検査をした所、放射線で体内で内部被曝が起こっている事がわかりました。」 俺は放射線って原子爆弾とか原発とかの危ない物質みたいなものかなと思った。
「妻は大丈夫なんでしょうか、、、」恐る恐る聞くと「もっと検査をしないとハッキリしたことは言えませんが、このまま放置すると危険な状態になると思われます。」俺はなんだか、よくわからなかった。
これは夢だろう。どこかで妻はなんとかなるだろと考えていた。 「はぁ、イマイチ理解できてないのですが妻はとりあえず治療しないとダメなんですね」 医者はうなづく。 俺はしばらくボーッとして「娘は、娘を連れて帰ります。どこですか?」 「108号室に、、。治療については、またお話ししますので後日、ご両親と章人さんで話し合いをしましょう」
俺は娘を連れて車を運転した。こうゆう時に涙があふれると思っていたら、意外にそうでもなく俺がこの家の大黒柱だ。妻はおれの全財産をかけてでも治療するし俺は今できることはなんでもやろう思ったら目が充血してきた。
後日、受付を済ませ印鑑を持って俺の両親と妻の両親が揃い、三役揃い踏みのような気合いを込めて担当医の部屋に入った。
「お待ちしておりました。早速ですが愛さんのご容態ですが危険な状態です。理由を詳しく説明しますので、よく聞いてください。 愛さんは体内で被曝を起こしています。体の内側から体の末端までの細胞に行き渡るまで放射線が通過しています。これが染色体の写真です。」
レントゲンの様な写真を見せられたがピンとこなかったが、二枚の写真を見た瞬間に、これはヤバイと思った。妻の染色体は正常な染色体に比べバラバラになっていて、原型をとどめてなかった。 「愛さんの染色体はバラバラになって他の染色体と絡み合って、もう元には戻りません。染色体というのは人体の設計図です。
もう、自力で自分の体を再生し維持する事は困難です。皮膚や粘液などの細胞は再生の周期が早いので、現時点でも皮膚がボロボロになってきております。」 妻の両親は泣いて動揺した。
俺は「とにかく、今ある技術で妻を救ってください」俺は咄嗟にこの言葉を言ってしまった。
「わかりました。最善を尽くします。しかし、お金もかかりますし、まだ人体への臨床が十分でない治療法もあります。こちらの同意書にサインとハンコをお願いします。」
俺は力を込めてハンコを押した。正直、自分に酔っていた、のちになって気がつくのだが果たして、この同意書を俺たちが同意する権利なんてあったのだろうか。人間は自分の死すら選べないのかと痛感する事になる。
次の日から妻は集中治療室へ移され治療が始まった。俺はただガラス越しで彼女を見守ることしかできなかった。 あとは医者を信じるしかない。そう思いながら毎日、集中治療室のガラスを通して彼女を思い続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます