瞳の色は赤だった FICTIONS DOLL

@tsukayama-kana

プロローグ

 深夜2時。彼は自宅からひっそりと歩き始める。革靴の音を夜の空気に響かせながら、目的地に向かう。こんな時間に外にいるのは、彼と[ターゲット]くらいだろう。十二月の凍える様な寒さの中でも、彼の服は防寒よりも動きやすさを重視したものだった。一応手袋もしているが、薄く張り詰める様な手袋の為やはり防寒用ではない。彼の格好で冬を語るのはニット帽だけだった。それも目立つ頭を隠す為以外用途はない。

 この日の為に彼は周到な準備をして来た。[ターゲット]から出来るだけ近いところに引っ越し見張り続ける。何処かに隙はないか、何処かに漏れはないか。考え抜いた上一番この時間が適当だと彼は判断した。高度なシュミレーションと精密な計画の上だ。失敗はしない。目的地に着き腕時計を見る。そろそろ現れるはずである。高鳴る鼓動を落ち着け彼は待った。


   ※


 佐賀秋絵は大荷物を抱えてアパートに向かっていた。大学の発表の為に準備に迫られ、やっと帰路についたところだった。ヒールで出たことを後悔し始めた頃彼女は足音に気付く。首だけ後ろを向けたところ背の高い人影が自販機の前に見えた。人影はしばらくして飲み物を買ったのか、背中を向け歩いていく。秋絵もため息をつくとまた歩き始めた。最近、女性のひとり歩きは物騒になっている。奇妙な失踪事件が界隈で発生しているのを彼女はネットのニュースで知っていた。

 荷物の重さにまたため息をついた次の瞬間、秋絵の形のよいすべすべした鼻はつまみあげられ塞がれた。突然のことに驚き何事かを判断する間もなく口も強い力で塞がれる。彼女の鼻と口を押さえ続ける手の様な物は濡れていて、唇に吸い付く。彼女は息苦しさに無茶苦茶に暴れるが、すぐに酸欠状態に陥る。懸命に鼻から息を吸おうと必死にもがくが、指のような何かで鼻を摘まれているためかなわない。秋絵は遠のいていく意識のなかで、遅くまで残った事を後悔していた。

 

   ※


 十二月二十日、佐賀秋絵(22歳)はK大学を午前2時過ぎ頃出発し、消息をたった。その四日後綺麗にラッピングされた、それは贈られてきた。秋絵の実家の前に箱が置いてあり、朝早く見つけて娘のサプライズかと開けた母親は卒倒した。中に入っていたのは、非常に状態のよい手首だった。警察の調べによると、佐賀秋絵のアパートから検出された彼女のものと思われる指紋と贈られてきた手首の指紋が一致したため、佐賀秋絵の手首だと判明した。またこの様な事件は三件目であり同一犯の可能性を視野に入れ、警察は連続殺人事件と断定した。


 そのニュースを観たK大学の学生が生前の佐賀秋絵の動向を証言していた学生の名は、柏木彩乃。心理学科の二年生で彼女の証言を頼りに失踪した場所の特定、付近の目撃情報を聴取するため警察が人員を増加させた。


 対決の幕が、あがる。

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