第50話 エレキの音が響く日は
50.エレキの音が響く日は
「私……この戦争が終わったら故郷にいるお姉ちゃんと一緒にギター作りをするんだ……」
もうすぐ日が暮れる午後四時半、インゴルスハイム基地の前ではエダが出撃前のお約束をやっていた。
「それ、毎回やるんですね」
「
「そういえば、なんでギター作りなんですか? 中尉は弾くのも上手いんですから、演奏家になればいいのに」
エダのギター好きは知っていたが、なぜギタリストになるのではなく作る側になりたいのか、疑問に思ったアーサリンは質問してみた。
「昔は電磁コイルに磁石を乗せたやつを表面に埋め込んで、弦の振動を電気信号に変えて音を出す『エレキギター』ってのがあったらしいんだ。私の夢はそのサウンドを復活させることなんだよ」
「夢……ですか。それって、電気信号をどうやって音に変えるんですか?」
「さあ……よく知らないんだけど、『アンプ』っていう音を出す機械があってさ、それとギターをケーブルで繋ぐんだと。ギターそのものに小型のアンプを内蔵したやつもあったらしい。今はGETSがあるわけだしさ、それを本体の裏側に仕込んで内蔵アンプの電源にすれば……」
「エレキギターの音が復活するんですね!」
「そう、それを女ギタリストがヘソ出しで演奏するんだよ。カッコいいだろ?」
「そのセンスはどうかと思いますが……」
「なんだよー、カッコいいじゃんかヘソ出しルック。そんなこと言い出したらあたしらのパイロットスーツなんてヘソ出しどころじゃないだろ」
そう言いながらエダがぶるんと胸を張る。彼女の言うとおりAMのパイロットスーツはV型水着そのもので、特にエダやルネのような特大サイズの胸を持つ者は、少し激しく動いただけで色々と見えてはいけないものがこぼれてしまいそうだ。
「私は好きでこんなハレンチな格好をしてるわけじゃありませんわよ! 普通の服を着てAMを操縦できるものならそうしています!」
「ちぇっ、お嬢様はこれだから……とにかく、私はこの戦争が終わったら絶対にエレキギターを復活させてみせるぜ。売り出すときのメーカー名はもちろん『リッケンバッカー』だ!」
「すごい! 完成したら絶対に音を聞かせてくださいね」
「ああ、アーサリンには真っ先に知らせてやるよ」
隊長のルネと副隊長のラモーナは、そのやり取りを少し離れた場所で微笑みながら見ていた。
「まったく……これからゲルマニア軍との決戦に向かうというのに、緊張感の
「重苦しい雰囲気になるよりはいいわよ。それよりも……エダちゃん!」
「はいっ、なんです少佐?」
「そっぴーちゃんが用意してくれた“秘密兵器”……お願いね」
そう言いながらルネがエダの機体を見上げる。
エダのキャメルの背中には、直径がAMの胴体ほどもある巨大なロケット弾が背負われていた。その先端が描く山なりのアーチはまさにラクダのコブのようだ。
「ああ、あれですか。任せてください! 絶対やつらに命中させてみせますよ!」
「エダちゃん……やっぱりそっぴーちゃんの言ったこと、ちゃんと聞いてなかったのね……命中させる必要はないの。というか、命中させちゃ駄目なの」
ルネが仏のようなアルカイック・スマイルを浮かべながら、光さえも飲み込みそうな漆黒のオーラを放つ。
「ひぃっ! す、すいませんっ!」
「ハァ……本当にお願いね? もしも敵がそっぴーちゃんの予想通りの手で反撃してきたら、あれが私たちの切り札になるかもしれないんだから」
「は、はいっ」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。みんな、今日こそあのクリンバッハ城を取り戻すわよ!」
「「「了解!」」」
基地にいるパイロットたち全員が各々の機体に乗り込む。
「ウィルメッタちゃんは少し遅れて出撃してもらうけど……頼んでおいたこと、お願いね」
「は、はいっ。責任重大ですね」
「アルバータちゃんも、そっちは頼むわよ」
「はいっ」
「まずはケッフェナッハでしばらく待機して。ラモーナさんのチームがヴァイセンブルクに到着したら
「了解!」
「私たちのチームも
「「「了解」」」
「ラモーナさんたちはヴァイセンブルクの麓にある森に隠れて、敵の飛行部隊がクルプル方面に引きつけられたのを確認したら城攻めに向かって」
「了解しました。ですが少佐、もしも敵の地上部隊がすでに道の要所で待ち構えていたらどうします?」
「それならそれで構わないわ。私たちは飛行部隊を陽動するのに集中するから、あなたたちは地上部隊を各個撃破して、それから城へ向かって」
「分かりました」
「それじゃあみんな……死なないでね。生きてまたクリンバッハ城で会いましょう」
「「「はいっ!」」」
鋼鉄の棺に抱かれた乙女達が声を合わせ、それぞれの目的地へ向けて発進する。
連合軍のエース部隊とゲルマニア軍のエース部隊、両軍の最終決戦が今まさに始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます