第20話 改修計画(連合軍SIDE)

 20.改修計画(連合軍SIDE)



「で……トマサさん、敵の新兵器に対してどんな対策があるとおっしゃいますの?」


 シャルロットの口調はきつい言い方でこそないものの、声のほうは胡散臭い話を聞かされたときのように若干気色ばんでいる。

 空を飛ぶ兵器など、今後の戦術論そのものに変革をもたらしかねない大発明といっていい。トマサの天才性を疑うつもりはないが、そんな斬新な兵器――それもわずか数時間前に存在を知ったばかりの新兵器に対して、すぐさま対策を立てられるとは到底思えないのだ。


「うーん、そうですねぇ……対策というか……このままじゃ戦いになりませんから、まずはAMの目であるアイカメラを改修しないといけませんね。横軸にしか動かない今のカメラじゃ上空を攻撃するどころか、敵の姿を捉えることすらできません」


「ああ、それは重要だな。実際あたしら発砲音を頼りにとにかくジグザグに逃げ回ってただけだし。追加装甲のおかげで撃破されずに済んだけど、いつもの装備だったら蜂の巣にされてたよ」


 エダの言葉には、実際に見えない角度から一方的に攻撃された者としての実感がこもっている。アルバータをはじめとするRUKトリオやルネも口こそ開かないものの、うんうんと頷いていた。


「改修というのは、具体的にはどういった形に?」


「今までのアイカメラは、AMの顔の部分に刻まれた横長の穴を左右に動くだけですよね。で、最初はカメラが上にも向けられるように、頭頂部に向けて縦長の穴を刻むことも考えたんですが……それだとこんなふうに、カメラの動きが逆Tの字に限定されちゃうんですよ」


 そう言いながら、トマサは自分の鼻から頭の上を指でなぞってみせる。


「そこで思いついたのがこれです」


 トマサは自分の首にかけていたヘッドホンのようなものを外し、目の前に掲げた。


「それって……」


 トマサが首にかけていたのは、寒い季節に耳を暖めるための『イヤーマフ』と呼ばれるものだった。

 AMのドックは基本的に扉が開けっ放しのため、秋以降の夜などはかなり寒くなる。そのため今頃の季節になると、多くの作業員がこのイヤーマフのお世話になっているのだ。


「まずこんなふうに、AMの顔にゴーグル型のバイザーを付けます」


 トマサはイヤーマフを、左右を繋いでいるヘッドバンド部分が目の前にくるように装着してみせた。たしかにこうするとゴーグルのように見える。


「これにアイカメラを搭載して、今までと同じように左右に可動するようにします。そしてこんなふうに……」


 さらにトマサはイヤーマフの耳当て部分を両手で押さえつつ、ヘッドバンド部分をぐりんと後頭部の方へ回してみせた。


「カメラが付いたバイザーが、人間の耳にあたる部分を支点に動くように改造するんです。こうすればカメラを上下左右、ほぼ百八十度近い半球状に動かすことができます。


「なるほど……それなら上空から背後を取られても、敵の動きを正確に捉えることができますわね」


「実はこのバイザー、製作だけはすでに開発チームのみなさんに指示してあります。一刻を争う事態ですからね。あとはカメラをどういう操作で動かせるようにするかとか、ソフト面での調整に少し時間がかかると思いますが……できるだけ急いで完成させます」


「お願いするわ。敵の動きや攻撃を見切れるなら、少なくとも今日みたいに一方的にやられることはなくなるでしょうから」


 ルネが心配そうな顔を少しだけ和らげ、胸の前で両手を合わせて“お願い”のポーズをする。


「でもさ、上空の敵に攻撃する手段はどうするんだ? AMの腕は四十五度ぐらいしか上げられないし、真上に来られたらミサイルも撃てないぞ。まさか敵が高度を維持できなくなるまで逃げ回って時間を稼げとか言わないよな?」


「作戦としてはそれもありだと思うんですけどね……現実にはかなり厳しいと思います。ですから、ちゃんとそっちのほうも考えてますよ」


「おお!」「マジか!?」」


 連合軍のAMパイロットたちの中で最も血の気の多いエダとアルバータの声が重なる。この二人、内心では一刻も早く今日のリベンジをしたくてたまらないのだ。


「まずは肩にマウントするミサイルポッドとか、ガトリングキャノンなんかのサブウェポンを上下可動式にしましょう。これはそれほど難しい作業ではないので、すぐに改修可能です。メイン武装である機銃で真上の敵を撃てるようにするには少し時間がかかると思うので、それまでしばらくはサブウェポンを中心に戦ってください」


「よぉぉーしっ! これでやつらに反撃できるぜぇ!」


 エダはもう勝利が決まったかのように拳を天に突き上げてはしゃいでいるが、実際は攻防いずれにおいてもまだまだ敵のほうが圧倒的に有利であり、とても互角とは言いがたい。AMでの高速戦闘において、ミサイルなどは避けられることが前提の牽制けんせい用武器なのだ。

 ガトリングキャノンにせよ、強力ではあるが弾丸の消費が早すぎて長時間の戦闘には向いていない。そういう点において、サブウェポンとして使われている武装はどれも飛行する敵との戦いには相性が悪いというべきだ。

 連合軍が敵の新兵器を打ち破って勝利するか、それとも敗北の果てに蹂躙じゅうりんされるか――全ては空を飛ぶ敵への攻撃手段をトマサが開発できるかどうか、その一点にかかっていた。

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