第6話 出撃
6.出撃
翌日未明、インゴルスハイム基地の正門前には六機のAMが整列していた。カメラを搭載した複座式のパップと、それぞれのエースたちが乗るキャメルだ。WEU軍所属のルネだけはリュシー・ジュベローが開発したスパッドVIIを乗機にしている。
今回の任務に合わせ、武装は携行用の機銃と腕に取り付けられた白兵戦用の電動式パイルバンカー(杭打ち機)のみに限定され、その他の火器は取り外されている。その代わりに、防御力と生還率を高めるための装甲板が追加されていた。
「あ、あのっ! ギヌメール大尉、今日はよろしくお願いしますっ!」
アーサリンがジョルジーヌに向かって頭を下げる。今回乗るパップは複座式とはいっても、GETSを削り出して作られた操縦ユニットに跨るのはジョルジーヌのみであり、アーサリンは増設された革張りの後部座席にカメラの撮影手として座るだけなのだ。
「少佐の期待を受けて出撃するからには、
「は、はいっ。他のみなさんも、よろしくお願いします!」
「おう、任せとけ!」
アーサリンは同じRUK軍所属の三人にも頭を下げたが、元気よく返事をしてくれたのは赤髪のアルバータのみで、他の二人はアーサリンに向かって軽く会釈しただけだった。
「ああ、あいつら愛想悪いだろー? ジョルジアナのやつはちょっと人間らしさに欠けてるっつーか、ときどきロボットじゃねえのかと思うこともあるけど、ロベルタのほうはただ口下手で無口なだけだから気を悪くしないでやってくれ」
アルバータがアーサリンの肩になれなれしく腕を絡ませながら他の二人のフォローをする。彼女の体は小柄だが筋肉質で、大きく胸元の開いたパイロットスーツから健康的に日焼けした肌が覗いている。そこだけ見ればまるで格闘技かなにかを嗜んでいる少年のようでもあるが、他の部分に対してあまりにも女性的な胸の膨らみがアンバランスだ。
「失礼ですね。私は軍人として、必要以上に他人に情を移さないようにしているだけです。それに、そもそも私とあなた方は仲良くするような間柄ではないはずですよ。ボール中尉がなれなれしいというか、図々しすぎるだけでしょう」
ジョルジアナが薄い水色の瞳で二人を一瞥する。
ジョルジアナ・マクエロイはRUK軍所属であるが、出身は旧アイルランドである。旧英国――すなわちユナイテッド・キングダムから一度は独立を果たし、その後の戦争によって再統合されてRUK|(リユニオン・キングダム)が誕生したが、旧アイルランドの人間は未だに旧英国の人間に対する遺恨を捨て切れてはいないのだ。
「へっ、自分が生まれる前のことをいつまでもグチグチと。お前みたいなのが多いから、いつまでも戦争がなくなんないんだよ」
「あなたのように歴史から学ばない愚か者が多いから、いつまでも戦争がなくならないのでは?」
「このヤロ……」
「……出撃前に喧嘩は良くない……」
太いマフラーを首に巻き、口元を隠したロベルタが二人の仲裁に割って入る。日本の北海道に住むという妖精コロポックルを思わせる黒髪のおかっぱ頭に加え、その表情は温泉に浸かっているときのカピバラのように穏やかだ。そんなロベルタに言われると毒気が抜けてしまうのか、アルバータも渋々矛を収めた。この三人は歪に見えて、実は結構いいトリオなのかもしれない。いや、負傷したウィルメッタも含めればカルテットだったのだろうか。
あと一時間ほどで夜が明ける。目的地の少し手前で履帯を
この時間を選んで出撃するのは、GETSが発見されるまでの間にデジタル式の記憶媒体技術がほとんど失われてしまい、写真といえば感光式のフィルムを使用するものに戻っているからだ。フラッシュを焚けば光で敵に気付かれるし、そのくせサーモグラフィーで敵の位置を捕捉する技術は残っているので、GETSが熱を発するAMでの夜襲にはほとんど意味がない。そのため偵察任務といえば、未明から明け方にかけて行われるのが通例となっていた。
「私……この戦争が終わったら故郷にいるお姉ちゃんと一緒にギター作りをするんだ」
「ギター……ですか?」
自分の乗機であるキャメルを見上げていたエダが不意に
「ああ、気にしないでくれ。これ、私にとって出撃前の儀式みたいなもんなんだよ。先に死亡フラグっぽいこと言っとけば、案外死なずに帰ってこれるものなのさ」
「はあ……」
「それでは、総員搭乗! 出撃します!」
ルネの合図と共に、七人の乙女が六機のAMに乗り込み、甲高い履帯の音を上げて出撃した。
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