シャリざんまい

ロテッド・シュリンプ

シャリざんまい

 俺は眼前の物体に戦慄した。

 以前から気になっていた『シャリ三昧』なる回転寿司屋に満を持して入店し、ひとまず“炙り”“ねぎまみれ”“タタキ”を注文してみると、レーンに滑り込んできたのは、炙ったシャリだった。

 理解が追いつかず店員を呼ぶも「これが当店の“炙り”です」とだけ。

「えぇ……」

 困惑しつつ食してみるが、やはり旨くない。ただの炙ったシャリだ。

 気を取り直す暇もなく、次の注文品の到来を報せるブザー。流れてきたのは山盛りのネギだった。裾からなんとかシャリは覗いてるがネタの姿は見えない。

「隠れてるだけよな……」

 とりあえず食べてみる。が、ネギとシャリが続くだけで、ネタの食感は一切ない。

 まさか、ともう一貫のネギを掻き分ける。そこには酢飯の塊だけが鎮座するのみであった。

 ……ふ、ふざけるな、なんだこの店! いくらなんでもコンセプト尖りすぎだろ!

 当惑しつつなんとかそれを胃に落とすと、再び襲来の電子音。次に滑り込んできたのは、真っ白な球体だった。少なくとも俺の知る“タタキ”でない。

 恐々とかじってみる。

「餅だコレ!」

 微塵もタタキでない! あ、いやまさか……“白米叩いて作るからタタキ”ということなのか……? オヤジギャグなのか……?! そんな引っ掛けする寿司屋があるか!

 口内に残る餅のせいで声も出せずカウンター下で地団駄を踏む。

「馬鹿に、しやがって……!」

 こうなったら意地でも普通のネタを食ってやる。するとおあつらえ向きに、カウンターの商品一覧に“天ぷら”の写真が載っていた。シャリ上の衣からはエビの尻尾が突き出ている。

「クク、この決定的証拠、間違いない」

 魔王めいた笑みを浮かべつつオーダー。数分と経たず獲物は目の前に現れた。

「フハハ、俺の勝ちだな『シャリ三昧』!」

 小さく叫びつつエビ天を口に運ぶ。するとたちまちふわっと柔らかな“シャリ”の旨味が口いっぱいに広がったのだった。

「そこまでして!?」

 尻尾はブラフだったのだ。

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シャリざんまい ロテッド・シュリンプ @kusattemoevill

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