夏の終わりに

高橋パイン

第1話

夏のおわり、残り花火のせつない気持ち。

せつなくて、時にほろ苦く、そして、心に少しの勇気。



 もうすぐゴールデンウィークだっていうのになんか肌寒い。

なーんて気がついて目が覚めた。

あっヤバイ、今日は二時までに起きようと思ったのに、また「5時に夢中」だ。


 まじーぜ、今日は常連さんの内藤さん、そうあの小太りの鉄鋼問屋の二代目とお寿司で同伴のお約束、待ち合わせ七時、六本木ウエスト。

 シャワー浴びて、メークしてたら時間なし。私はどちらかの選択。

うーん、内藤さんだからメークはいいや、シャワーへGO。


 ちゃんとした服、着ようと思ったけど、頭ビショビショ乾かず、Tシャツをかぶる。このまま出かけてもいいけど、やっぱり、まだまだ四月の終わり、夜風に鳥肌イヤな予感。

 一枚トレーナーを腰に巻いて出かけることで本日のファッション・チェック完了。小麦色に焼けた肌に真っ白シンプルなTシャツ、とってもOK、でも、どう見てもそこらのサファー気取りのお気楽なお嬢。とっても、気苦労重ねた「ホステス嬢」には見えないつもりは私だけか、これ、最近のシンプルさ重視の売れ筋ホステスファッション事情、ただし、銀座老舗地区除く。



「もっと、ホステスらしくお願いできませんかぁー」

マネージャーにまた文句にイヤミのひとつ、ふたつも、マァいいか、店に置いてあるチャイナドレスでも着てやってお客のウケでもとるって企画で今日の所はこれで良し。

 とは言ってもウチのお店、コスプレ系クラブなんかじゃないからご注意あれ、健全な老若男&若い女の社交場、そうク・ラ・ブ、尻さがりのクラブ。街中、景気が悪い悪いってバタバタ潰れる飲み屋だらけだけど、銀座に3軒、六本木にウチを入れて4軒の店だけはなぜかウハウハらしい。

店の形態は時間制アカウントだからか限りなくキャバクラ?一時間いておひとりさま一万二千円、指名料二千円にボトル、「ハウスボトルなんかありませんので、ボトルキープお願いします」ってカンジで、初めて座ればお一人さま三万円かな。

 なーんて知ったか風の私もこのお店勤めて今日で一週間。

 それまでは赤坂のお店にいたんだけど景気悪くて、日払いのギャラが週払いになり、月給にするなんて店長が言うから、この業界の掟、ギャラの遅れは嫌な予感。経営不安に不況乗りきり生きる知恵、じゃって、即トラバーユ。

私たちお水は自然の法則、お金払いの良い所、高くて豊富な所に流れていく。

 今日の小太り社長の若旦那もその時からのお客さん。これがいい人で全然気なんか使わない、失礼ながら。たまにいるんだ、こんな人。

 赤坂のお店は、なんやかんやで二年近くいたけど何か人間関係に疲れちゃって、もういいかって時期だったから、給料遅配はいいタイミングってすぐ辞めた。

じゃ、他のお仕事、人生変革っても、いわゆる高収入サービス業から一般企業へは金銭的にもどれる体じゃすでになし。こんな人生の悩みは私だって、多少はあり。

でも、こんな悩みを相談できても、理解できるお友達は同級生関係には完璧皆無、いまだに私の労働=「水商売」って事はほとんどの子が知らないはず、ま、進んで発表する程のことじゃなし。

 じゃあって店でのお仲間内でほんとに相談できるの相手、友達なんか皆目いないし、ま、最初っからできるとも、作ろうとも考えてなかったし。だって昼間に会うことがほとんどなくて夜だけのお付き合いメイン、そりゃグチや悩みも共通点いくつかあれど、心底、自分さらして腹のそこまで割れない私。そんな私は変かもしれない、でもいいの。


 いい歳こいても、まだまだ人生の目的わからないのも事実。

 別に結婚したい訳でもなく、昼過ぎ起きたり、夕方起きたり、

「こんなんでいいのかなぁ、いや、マズイ」

 なんてもちろん思う。

 でも、たまの休日、春の空は高く、桜の青々とした新芽をそよぐ柔らかい春の風は、まだまだ、ゆっくり人生OKよって、こんな私に元気を与えてくれる。とは言え、私ことしでもう二八歳。

 店のまわりは自称十代から平均年齢二一歳ってカンジで話は、ちょっとかみ合わず。でも、そんなコミュニケーション希薄関係、これもまぁ気楽。人生どこまで気楽に生きていけるか、ちょっと限界試したくも、親の顔も浮かぶ鳥肌は春の夜風が身にしみて、持っていたトレーナーをやっぱりTシャツの上に着込む。



 不況不況と言いつつも結構いつも混んでいるこの不思議、ここに集う殿方に日常の危機感ナシ、いや開き直って酒頼み、たまのIT長者か馬鹿じゃなかろかのスゲー ボトル入れるアホもいる。

「送り」の車はいつもの星条旗通りの入り口。

 じゃ、お疲れー、また明日、のあいさつに店長がみんなに配る封筒。大入り袋じゃあるまいし。今日の「送り」は、珠ちゃんと純ちゃんといっしょの三人。

車に乗ったら、この二人封筒開けてキャッ、キャッ、キャって。

私がキョトンとしていれば気づかい珠ちゃん、「あっ、ヒトミさん知らなかったー?旅行ですよ、旅行。毎年ゴールデンウィークと正月明けにみんなで社員旅行に行くんですよ。ことしはハワイですよ。うれしー!!」

思わず私「ゲ!」おまえらOLかい。

 私ぜったい行かないと速攻決意、それに誰がそんなお金出すの?

聞けば、どうやら彼女たちは「旅行積立」をやってるんだって。

 じゃ私は行かなくていいもんね、と珠ちゃんに言ってみれば、「だめですよー、ヒトミさんがお金なかったら、お店が旅行のお金貸すって店長言ってましたよー。私、ヒトミさん大好きだからすっごく楽しみー」と、あくまでも、珠ちゃん天真爛漫。



 絶対行くもんか、 と決意新たに少々ヤバイ予感、私今までの人生二十八年、驚異的断りべたの成り行き任せの柔軟娘、流されやすいのだ。度重ねた失敗、後悔の数々。

 ママとパパが離婚するときに本当はママのほうについて行きたかったんだけど、パパがあまりに、そう、メソメソ泣きながら頼むもんだからパパに付いていってあげた高校一年生。男?少しの失敗もちろんあれば、ママがこの前言ってた。

「あなた男に関して言えば、ただの趣味が悪いというか、ホント見る目がないわね、私といっしょで」って。

 だから、なんでもかんでも誘われればどんな男にでもついていく女ではない訳で、無理矢理のヤバイ状況でもトイレにいくふりして逃げちゃう無神経さは自信あり。

 そう言えばOLやってたときも絶対ヤダヤダって思って熱海1回、箱根2回 計3回OL生活全社員旅行全制覇、なんだかんだ気がつきゃ行ってて後悔後では立つわけなし。


 行きたくないんだったら、一言断りゃ簡単な話、解かっていたってできない性格。困った、困ったって思っていたってビッシリ断る元気なく、いつも、ヘラヘラそうですねぇーでも、多分ダメかもぉーってごまかし、ごまかし、でも、手元に残る楽園ハワイのご旅行スケジュールに渡航書類一式、昨日は部屋割り表までくださった、ここまで来たら親戚殺すか、病気になるか。

 迫る日程、何とかしなくちゃもうヤバイ、何とか何とか理由を見つけてハワイ阻止って毎日思う深夜の246の帰り道、春の陽気に誘われて目を閉じ腕を組み、どうしようかと考えた次の一瞬、眠りに落ちるも、春眠「暁」と「いい答え」全く覚えず、気がつきゃいつもウチの前。

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