回転寿司「カクヨム」

沢田和早

この話こそ廃棄処分

 私は一皿百円の回転寿司屋のカウンター席に座っていた。

 目の前を様々な寿司が流れていく。どれも重い。口に合いそうにない。

 私は店員に文句を言う。


「おい、この寿司は何だ。胃もたれしそうな寿司ばかりじゃないか」


「はい。当店では極上のネタとシャリだけを使っております。至高の修辞法、隙の無いプロット、息もつかせぬ展開、驚天動地のラスト、これらの素材を熟練の職人が技術の粋を集めて執筆し、寿司にしております。どの作品も、芥川寿司賞、直木寿司賞、ノーベル寿司賞に比肩する銘品ばかり。必ずやお客様の口に合うものと自信を持ってお勧めいたします」


 どうやら私を美味い物の味も分からぬ低レベル読者であると決めつけているようだ。少しむっとなって反論する。


「見れば分かる。これでも私は趣味で寿司を握っているのだ。しかし今日は重い寿司は食いたくない。そこらの回転寿司屋で回っているような寿司を味わいたいのだ」


「と言いますとつまりは、有り触れたテンプレ、つええ、ちーと、もえ、いせかい、そんなチープな素材の寿司をお求めで?」


「ああ。食い慣れた寿司が一番だ。そもそも重い寿司を食いたいのなら回転していない寿司屋へ行く。ここに来たのは軽い寿司を食いたいからだ。客のニーズを見失ってどうする」


「左様ですか。それではそのように」


 引き下がる店員。

 やがて目の前にチープで添加物満載、バイトでも書けるテンプレの寿司が流れてきた。

 私は手に取って口に運ぶ。うむ、やはり不味い。しかし私の口には合う。


 見れば店にいる全ての客が私と同じテンプレ寿司を食っている。

 当たり前だ。ここは回転寿司屋。

 こんな店で高級寿司を流したところで手に取る者などいるはずがない。


 こうして熟練の職人によって生み出された名作とも言える寿司は、誰の手にも触れられることなく回転し続け、やがて干からび、朽ち果て、作者を失意のどん底に突き落とした後、ひっそりと廃棄処分されていくのであった。

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