第24話 結婚と初恋
中に入ると従兄弟で兄の方の翔くんが桜さんの手伝いをしていた。
翔くんもいるんだ…。そりゃいるよね。で、おじさんは…。
キョロキョロしていると桜さんが一言。
「修ちゃんはいないわよ。今日は出張なの。男ばっかりいても、むさっ苦しいからちょうどいいわ。」
修ちゃんとは修一さんで、パパのお兄さん。桜さんのコメントもどうかと思うけど、きっとパパと修一さんのお父さん(つまりおじいちゃん)も変わった人だったんだと思う。
だって兄の修一の弟に喜一ってつけたんだもん。どっちがお兄ちゃんよ!ってならなかったのかな…。
遠い記憶のおじいちゃんはパパ以上に孫の私にあまあまだった気がする。
「なぁ。ケイキが心愛に外でチューしてたぞ。喜一さんに言いつけてやろう?」
ルーくんが桜さんに告げ口してる。
「あら。無駄よ。佳喜くんは喜一さんの秘蔵っ子だって言ったでしょ?」
秘蔵…。それならいいってことなの?
「なんだよ。それ。本当にケイキはいいのかよ。」
「だからお兄ちゃんの特権って言っただろ?」
変なの。だんだん兄妹っていいもんだって思えてきちゃうよ。
ついさっきまで兄妹で寂しく思っていたのに。本当バカみたいじゃない。
ケイちゃんが作ってくれたピザと桜さんの用意してくれたサラダなんかを囲んで豪華な夕食になった。
「佳喜くんの腕前はさすがね。毎日こんなに美味しい料理が食べられるなんて、心愛ちゃんは幸せね。」
ケイちゃんのピザは、もちろん好評でみんな次々に手が伸びる。
ルーくんも不服そうな顔しながらも黙々と食べているから美味しいんだと思う。
「うん。ケイちゃんのご飯は美味しくて幸せです。」
へへへっと笑いながら私もピザにまた手を伸ばす。
「そういえば。俺、結婚するんだ。」
珍しく大人しかった翔くんがかしこまって口を開いた。
「えぇ!?本当?」
みんなの視線を集めて照れている翔くんが新鮮。ふざけてるところしか見たことないかも。
そんな翔くんが緊張さえしてるように見える。
「大学の頃からの彼女で。心愛への愛情も理解してくれるいい子なんだ。」
ヤダ。そこ基準って彼女は大丈夫なのかな…。
余計な心配をしてしまう私だったけど、翔くんの照れた幸せそうな顔を見ると、そんな心配は必要なさそう。
「なんだよ。心愛が大事とか言っといてさ。」
ルーくんが不満たっぷりな顔でふてくされている。
「ルーくん。実は翔くんが結婚しちゃうから寂しいんでしょ?」
私がからかうとルーくんはますます不満そうに頬をふくらませた。
「んーなわけあるか。俺は心愛と結婚するから平気。」
「だからしないから!」
ルーくんはプイッとそっぽを向いた。
そんなこと言って、本当は翔くんが結婚して寂しいんだろうな。なんだかんだ言っても仲良し兄弟でうらやましかったもん。
ふいにギュッと抱きしめられてドキッとすると、隣のケイちゃんがいつの間にやら私に腕を回していた。
「俺はずっとココの側にいるから大丈夫。」
えっ…と。
なんて言えばいいのか言葉に困る。
でも…。きっとそうだ。私はそれを心配して寂しく思っていたのかも。
ケイちゃんが…誰かと…結婚してしまったら。結婚まで行かなくても大切な人ができてしまったら。って。
黙っている私に再びケイちゃんは欲しい言葉をくれる。
「俺はココだけだ。ココだけが大切だ。」
こんな言葉に喜んでいいのかな。
そう思いつつも回された腕にそっとしがみついた。
「なんだよ。心愛は初恋の人がいいんだろ?」
急にルーくんが大きな声を出した。
え…。何を急に…。
確かに今でもたまに思い出すくらいに気にはなっていると思う。でも今は…。
「その初恋の人って俺だぜ。」
「え…。うそ…。」
またルーくんの適当な文言だと思いたいのに、見つめられた目は真剣だった。
「女の子みたいな可愛い格好した子が「俺が心愛を守る」ってほっぺにチューした。あの子は女の子だったのかな?男の子だったのかな?って言ってただろ?あれ。俺だから。」
何を…。急にどうして…。
「だって、今まで何度もその話して「誰か知らない?」って聞いても知らないって言ってたじゃない。」
なのに今さらどうして。
「そりゃ女みたいと思われたのに「それ俺」なんて言えるかよ。」
うそ…。本当に…?
「俺ら家族と心愛のとこと一緒に旅行に行った時のだろ?俺、母さんに女のドレス着せられたからよく覚えてる。心愛が泣いてて…。」
そう。お母さんのことを思い出して泣いていた私。そこへひょっこり現れた可愛いドレスの女の子。
なのに「心愛は俺が守ってやる」って言われてほっぺにチューされた。
だから男の子なのか女の子なのか分からない不思議な思い出。
「じゃ。私からチューしたのもルーくん?」
「それは…。そんなことより俺が初恋の相手なんだぞ。初恋の相手が分かったら結婚する!とか言ってただろ?」
私の初恋の相手。結婚するって決めたって小さい頃に言ってたみたい。
でも…。それは小さい頃にそう思っただけで。
「ほらほら。もうその辺で。瑠羽斗。しつこい男は嫌われるわよ。」
桜さんが珍しく助け舟を出してくれて、この話はおしまいになった。
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