第5話 サトウ多め

 電車に乗る前にお気に入りのケーキ屋さんで手土産をケイちゃんと選ぶことにした。

「ねぇケイちゃんはどれが好き?うわぁどれも美味しそうだね。」

 見た目も可愛らしいケーキは見てるだけで幸せな気持ちになれる。そんなウキウキしている私の横でジッとケーキじゃなくて私への視線を感じる。

 な、なんでしょう?ケイちゃん。視線が痛くてそっち向けない…。

「ケーキも甘そうだけど…。」

 そう言ってプルンッと私のくちびるがケイちゃんの親指で弾かれた。

「俺はやっぱりココのリップの方が甘くて好きだな。」

 ひぃ。なんでただいま絶賛お色気中なのでしょうか。家ではハグチューしても割と普通じゃなかった?ねぇねぇ!

 私はケイちゃんの方を恐ろしくて向けないでいると目の前の店員さんが「ほぅ」ってため息をついた。

「ラブラブですね。」

「いえ。そんなことは。普通です。」

 ケイちゃんはしれっと受け答えしている。

 普通って!普通って!ケイちゃんの普通が全くもって分かりません!

「ほら。手土産を決めるんだろ?」

 ケイちゃんは何人分必要なんだ?と至って普通だ。

 そうでした。ケイちゃんは遊び人の危険人物だった。危ない。危ない。忘れちゃいけない。

「えっと従兄弟は2人兄弟でおじさんおばさんがいて、あとは私たちだから全部で6個あればいいかな?」

 この後は無難にケーキを選べてホッとするとケーキ屋さんを後にした。


 道行く人が少ないことを確認して声を落として質問する。

「ねぇ?どうして人前の方が…なんていうかスキンシップが激しいんですか?」

 つい敬語で聞くとクククッとまた馬鹿にした笑い声を上げた。気に食わないけど一番ケイちゃんらしい気がする笑い方。

「別にそんなことないと思うけど?家でもあぁした方がいいならそうするけど。」

「ちがっ…家の方と一緒でいいの!だいたい普通ツンデレって外で冷たくて二人の時にあまあまなんじゃなくて?」

 ブツブツ文句を言う私の声は聞こえないのか手を差し出された。

「お姫様。迷子になるといけないので。」

 お姫様って…。迷子って…。

 戸惑う私にまた意地悪な笑みを浮かべて勝手に手を取って歩き出した。

 ケイちゃん絶対にAB型だよ。裏表あり過ぎ!ううん。世の中のAB型の人に失礼だね。ケイちゃんの血が青色でも驚かないよ。私。


 従兄弟の家につくとおばさんの桜さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい。心愛ちゃん。こちらは佳喜くんでしょ?喜一さんから聞いてるわ。ささっ佳喜くんも遠慮しないであがって。」

 人懐っこい笑顔を向ける桜さんは年齢不詳の美魔女って言葉がふさわしい綺麗な人。でもパパのお兄さんと結婚して子どもも私より大きい社会人までいるから…と思うのにそれを感じさせない。

「瑠羽斗がいるの。心愛ちゃんが来るって言ったら楽しみにしちゃって。」

 う…。ルーくんいるんだ。大丈夫かな…。

 ケイちゃんをチラッと盗み見たけれど若干鋭い目つきに戻ってるかなってくらいで何も読み取れなかった。

「心愛!久しぶりだね。こっち来てよ。…こいつは?」

 あからさまに敵意むき出しのルーくんがケイちゃんを睨んでる。

「えっと佳喜くん。お兄ちゃんなの。」

「よろしく。」

 ケイちゃんは爽やかに挨拶してくれた。良かった〜。

「お兄ちゃんって…。心愛は一人っ子だろ?」

「瑠羽斗。彼は喜一さんの秘蔵っ子なのよ。」

 秘蔵…。桜さん上手い表現。

「いいんです。桜さん。俺、喜一さんの隠し子。」

 ケイちゃんは隠す素ぶりも見せずに普通のことのように話した。ケイちゃんの心臓の構造を覗いてみたい。

「ふ〜ん。喜一さんも結構やるね。で、なんで心愛の隣がこいつなの?俺の隣に来てよ!」

「俺がお兄ちゃんだから。」

「そんなの理由になってない!」

 ルーくんは不機嫌そうに頬を膨らませると桜さんが苦笑しながら珈琲を運んでくれた。

「佳喜くんごめんなさいね。うちの子たち心愛ちゃんが大好きなのよ。」

 私も従兄弟の説明を加える。

「ルーくんの上にお兄ちゃんがいてね。翔(かける)に瑠羽斗(ルート)なの。おじさんが数学の先生をしててね。」

「あぁ。だからルート…。」

 珈琲にお砂糖は入れる?いえ俺はいいです。そんな会話が終わるとルーくんが角砂糖の入った小瓶を手元に引き寄せる。いつものことなんだけどさ。

 ドボドボドボっと入れた。小瓶の方に珈琲を。

「ゲッ。まさかそれ飲むのか?」

 ケイちゃんが驚くのも無理ないよね。何個の角砂糖が入ってたんだろう。数えたくもないけど。

「なんだよ。いいだろ佐藤さんなんだから。」

 毎回聞く理由だけど不可解過ぎて理解できない…。

「あら。今日は本当に佐藤さんが多めね。」

 桜さんのおとぼけなところ好きですけど…。もう少し動じて欲しいかも。

「俺も佐藤だけど無いわ〜。」

 ケイちゃんはズケズケと言葉を吐き出す。ルーくんへの視線の冷たさ増してないかな?

 ドキドキしているとルーくんもカチンときた顔をした。

「なんだよ。お前兄ちゃんなんだろ?兄ちゃんじゃ心愛と結婚できないんだぞ。俺は従兄弟だから結婚できるんだからな!」

 それも毎回言われるけどしませんよ。そう思っていると隣のケイちゃんに引き寄せられた。

「可愛いココをお前なんかにやるもんか。お兄ちゃんの方がずっと一緒にいられるんだぞ。」

 ギュッと抱きしめられると、これ見よがしに頬擦りをされチューされた。ほっぺにね。

 いや…。だからちょっと待って。外の方がスキンシップ…はぁ。以下同文。

「まぁ。喜一さんといるみたいね。」

 フフフッと桜さんは楽しそうに笑う。

 やっぱり私の周りの人ってズレてない?笑えない。私は笑えないよ。

「なんだよ。心愛は俺の膝の上に座るんだぜ。」

「それ子どもの頃ね。」

 私はケイちゃんの腕の中のままルーくんの適当な文言を突き返す。

「一緒にお風呂入っ…。」

「それも子どもの頃ね。」

「結婚しようって約束…。」

「それは子どもの頃もしてない!」

 しょぼんとするルーくんが少し可哀想に思える。でもしてないものはしてない!

「せっかくだから食べましょう。心愛ちゃん達がケーキ買ってきてくれたのよ。ケイキくんにココアちゃんなんて本当に素敵な兄妹ね。」

「ふんっ。ケーキなんてこうだ。」

 ルーくんはブスッとフォークを刺して一口で食べてしまった。佳喜(ケイキ)を退治してやったと言わんばかりの顔で。

 はぁ。どうして私の周りの人たちはこんなに愛が重いんだろう。

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