化け物殺し・吉兆之助退魔異聞 外伝

鶏ニンジャ

外伝 おいてけ堀奇譚

「う~…さみぃさみぃ…」


 月は雲に隠れ、木枯らし吹きすさぶなか。寿司折りと提灯を持った年のころは二十歳後半。そこそこ顔立ちの整った町人風の男が歩いている。


「まったく、早く帰ってこの寿司で一杯やりてぇなぁ…」

 

 男は独り言を言いながら足早に家路に向かう。何の変哲もないお堀のそばの小道だが最近はこんな噂がある…


「おいてけぇ~…おいてけぇ…」

「な、なんでぇい…ここここ、この声は…」


 そう、通りがかった相手に対して、その命までも奪う「おいてけ堀の化け物」である。


「その寿司…おいてけぇ…」

「ばばば…お、おたす…」


 しかし、男の足は動かない。金縛りである。


「すすす、寿司はやるから、命だけは勘弁してくれぇ!」


 男は寿司折りと提灯を前にほうり投げる。すると、堀からスーッと何かが上がってくる。提灯の明かりだけの暗闇の中、しかし、明らかに人ではない影…


「くくく…寿司は好物だが、わしは人間もこう…」


 言いながら化け物が寿司折りを開けようとした瞬間


「ぎゃーーー!!!」


 爆発!閃光!そして!


「き、貴様!!!」


 マグロ!イカ!タマゴ!寿司が飛び散り、化け物の体中に五寸釘が何本も突き刺さる!寿司折りは非人道的爆弾だったのである!


「よーし!平助へいすけ!よくやった!!」


 平助と呼ばれた町人姿の男の後ろから、派手な着流し姿の男が疾風のように駆けてくる!


「ぎゃーーー!!!」


 そのまま抜刀一閃!化け物を胴体を深々と斬り裂く!


「わりぃな!金縛りなんざぁ、ぞっとしねぇから、お遊びはなしだぜ?」

「こ…こ…」


 化け物は最後に何かを言おうとするが、もはや言葉もない。そのまま力なく倒れ絶命した。


「き、吉兆の旦那ぁ~」

「よくやったな。平助!なかなかの演技だったぜ?こいつぁ、芝居小屋でも食っていけるんじゃねぇか?」


 雲が流れ、月明りが男を照らす。上背があって眉目秀麗、赤と黄色の派手な着流しのその背中に大きく書かれたその文字は…


         化け物、殺してござ候

          極楽院ごくらくいん 吉兆之助きっちょうのすけ

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