君の寿司な人

まめあじ

第1話

「寿司な人がいるの」

今までに見たことのないような真剣な顔で君が言った。

「寿司な人?」

僕は聞き返した。

「うん、寿司な人」

どうやら聞き間違いではないらしい。


-寿司な人がいる-


僕には、その言葉の意味が理解できなかった。

「寿司な人がいる」なんて女性に言われたのは初めてのことだったからだ。


こういう時、何と返せばよいのだろう。

もし、「おめでとう、よかったね」なんて言ってしまったら、僕らの関係は終わってしまうのだろうか。

僕が次の言葉に迷っていると、

「お手洗いに行ってくる」

と、彼女が席を立った。


僕は、彼女が「トイレ」のことを「お手洗い」と言うところが好きだった。

それだけじゃない。もちろん他にも沢山、数えきれないほど好きなところがある。

僕は彼女をこんなにも愛おしく思っていたのかと、「寿司な人がいる」と言われて初めて気が付いた。


トイレから戻ってきた彼女に

「さっきの話だけど」

と言うと、彼女はきょとんとした顔で言った。

「さっきの話って?」

僕は驚いた。

自分から「寿司な人がいる」と言っておいて、何の話をしていたのか忘れてしまうなんて。

「寿司な人の話だよ!」

イライラした僕は、強い口調になっていた。

「大きな声ださないでよ」

彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

「ごめん。で、誰なの?寿司な人って」

僕が聞くと、彼女は小さな声でこう言った。

「・・・あの人なの」

僕は、彼女が指さす方向をゆっくりと見た。


観葉植物の陰からちらりと見えるロマンスグレーの紳士。

髪型がまるでバッテラのようだった。


「寿司な人ってそういうことか。僕はてっきり・・・」

そう言いかけると、彼女が不思議そうな顔で僕を覗き込んできた。

「いや、なんでもない」

「なによ~。あー、なんだかお寿司食べたくなっちゃったな」

彼女はストローで氷をつつきながら言った。

「じゃあ、食べに行こうか」

僕がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて大きくうなづいた。





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君の寿司な人 まめあじ @matty0321

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