故に世界はスシである

藤村灯

第1話

 なんだ? 不思議そうな顔で世界儀を見おって。


 そうか。お前さんこの世界に来たばかりか。

 それならわしが勇者エドマエの話をしてやろう。


 その頃、王国は長年にわたる海魔との戦いで疲弊しきっておった。

 神官の祈りにより、大地の女神によって遣わされた男。それがエドマエだ。


 女神の加護を受けたエドマエが使うのは、異世界の格闘術バリツ。

 七日七晩戦い抜いて、たった一人で王国の海岸線を守り抜いた。


 武器など使わん。女神に祝福された、スメシを敷いた戦場に敵を叩き付ける。何人もの勇者を屠ってきた海魔の将軍も、彼の前では手も足も出なかった。


 なに? 魚だから元々手も足もない? 茶化すな。


 エドマエの快進撃に、王国の者も奮い立った。

 百人の魔法使いが総力を結集して造り上げたのが、決戦兵器グンカン。

 海魔から奪った、聖別された海藻・ノリを張り巡らした海上の砦だ。船なんてものじゃない。あれは浮かぶ城だった。


 グンカンで海魔の城に殴り込みを掛けたエドマエは、ついに海魔の王との一騎打ちに臨む。

 結果は三日三晩戦った末の相打ちだ。


 だが、戦いに感じ入った海の女神は、エドマエを癒すべく手を取った。


「爺さんと同じ、優しい握り方だ」


 エドマエは女神に言ったそうだ。


「海にも底があるだろ? それは大地に繋がってる。

 どっちが偉いって話じゃねえ。海と大地は、どっちが欠けても成り立たねえ。

 シャリとネタみたいにな。

 あんたにも食わせたかったぜ。爺さんのスシを」


 既に力を使い果たしていたんだろう。

 癒しの甲斐なく、そのままエドマエは息を引き取った。


 それから、海と陸との間で和平が結ばれた。

 とんとん拍子とはいかなかったが、昔のような争いは二度とは起こるまい。


 見ろ。この世界儀は、エドマエの遺した言葉をそのものだ。

 大地の恵みを表すシャリと、海の豊かさの証しのネタの、調和した姿。


 なに? 生魚をそのまま握ってもスシにはならない?

 帰れ! エドマエも知らんくせに世界を語るな!

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故に世界はスシである 藤村灯 @fujimura

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