第4話

 霧島牧場では、霧島おにくを作っている。

 霧島おにくとは、この地方の牛さんが栽培した大豆で作った、たんぱく質バッチリの食べ物である。ちなみに、神戸の牛さんが神戸の大豆で作れば、神戸牛と言うブランドになり、広く流通している。

 他にも色々事業をやっていて、定番の霧島ミルク、霧島チーズ、霧島ヨーグルトは、巷でも大人気。

 そんな霧島牧場の経営主、弁慶号のご令嬢がももこ号だという事実をさちお君が知ったのは、付き合い始めて暫くしてからだった。勿論マジメにお付き合いしている、その事実を知る以前もその後も。だって、単に大好きなんだもん。しかし、将来の事を考えるとどうしても避けて通れないのが、そう、ももこ号の、その父親の存在なのだ。

 そういえば、何日か前、ムレータとか言ってたっけ、赤い大きな布めがけて突撃をしていた、やけに体格の良い牛さんが居たっけ。周りの、如何にも腰の低そうな牛さん達が、突撃の度に、何やら言ってた「社長!すばらしー」とかなんとか。

 もしかして、関所は、あの牛さん?コワイ。

 なにはさておき、お父様の存在そのものはしっかりと認知していたさちお君。しかし、ここだけの話になるかならないかはともかく、弁慶号を認知していない事にした。僕は知らない!知ってなるものか!


 っていうか、ももこ号が何か言ってないのかなぁ…。

「素敵な彼氏に出会ったの!」とかぁ…。

「紹介したい彼氏が居るの!」とかぁ…。

「パパ、今までお世話になりました(!)」とかぁ…。


 そんな事より、彼氏かぁ…。何て甘美な、お・こ・と・ば…。


 ああいった想像を育んでいると、どうも顔がにやけて困る。そう言えば、すれ違った羊さんが、口をモゴモゴさせながら怪訝そうにこちらを見ていたっけ。言っとくけど、変質者じゃないぞ。良いじゃないか、にやけようがどうしようが。笑顔が一番!

 そんな感じでフワフワ歩いていると、ももこ号が走ってきた。

「さちお君、電話ありがとう。」

 さちお君は昨日、仕事で疲れたから息抜きに会いに行く事を連絡していた(どうだ、この若干出来上がった雰囲気は。。。)。

「最近、かなり忙しいんでしょ?メールがとても短かったから、多分そうだろうって思って、メールしたり電話したりするのを控えてたのよ。」

「そんなに気にしてくれなくいいのに。確かに、忙しかった事は否定しないよ。ちょっと撮影が重なっちゃってさ。今、毎週土曜日にやってるサスペンスの撮影で中々休みが取れなかったし、幾つかの雑誌の特集号に載せる為のインタビューと、そうそう、バラエティーの撮影も、だね。大変だったよ、とにかく。で、ひと段落して、息抜きしようと思ったわけさ。」

 仕事の話をさらっとする自分って、イケテル、間違いなく。

「新しいスマホは慣れた?ももこ (もう、敬称は付けなくても良い、あ・い・だ・が・ら)」

「うん。でも、スマホ用タップパットを新しいのに変えないと、ちょっと不便かなぁ。」

ひずめにはめて使う、あれ?」

「そお。タップがすっごくしづらいの。DOKOMHO専用だからかなぁ、今のパット。」

 そう言うと、ももこ号は、前足にパカっとパットをはめて見せた。

「キャリヤによって違う事はないと思うけよ。そうか、もも子の新しい端末、pineappleだもんね。ちなみに特注だろ?何日くらいかかるの。」

「3日かなぁ。私とした事が、すっかり注文するの忘れてて。」

 ポチポチとボタン操作をするが、どうもしっくりこない模様。

「既製品は、やっぱりダメ?(お金かかる牛さん。でも、か・わ・い・い)」

「ダメ。私、ほら、前足が小さいから、ポロって外れちゃうの。」

 確かに、暫くすると、パカッと外れて、危うく新しいスマホを落とすところだった。

「ま、ちょっとの辛抱だから、我慢しようね。」

「うん、そうする。」

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