対外試合 3
(ふふふ、気負うなって言いながら宗輝さんもなかなか気合入ってますよね)
光は珍しく激励を繰り返す宗輝のことを思い出しながら苦笑していた。
(そう言いながら私も闘志漲らせてますから)
相手選手が左のバッターボックスに入ったことを確認して、構えを冷静に見る。
(初回はどんどん攻めてもらいましょう)
初球のサインを送る。
一球目、振りかぶって投じた一球はインコース。
「……えっ?」
ただでさえ出どころが見えにくいフォームで相手バッターの当たるかスレスレのコース。外れはしたが最初の一球としては上出来だと思う。
テンポよく二球目、続けてインコースに投げる。
相手はタイミングが取れずにバットを出せずにいたが、これも際どいコースで外れて早くも2ボール。
(何しているんですか!!)
(ボクは悪くないよ!絶対に二球ともストライクだったもん!)
はぁ、私もそう思っていたからこれ以上は何も言いませんけど。それに元々コントロールがいい方ですし、大丈夫でしょう。
「……フォアボール!」
((…………))
三、四球目も外れて早くランナーを背負う。
……コントロールは言い方なんですよ。本当に。
宗輝さんを横目で確認すると少し不機嫌そうな表情で妹さんが落ち着かせていた。
「……気負うなって言ったのに」
「まあまあ、兄さん。今のは全部いいコースだと思うよ」
それは分かっているが、初回の先頭打者に四球という結果をいいとは認められない。
「それにほら、二人とももう切り替えいるみたいだよ」
「当たり前だよ。初回でずるずる引きずられたら尚美先輩を早く出さないと行けなくなるだろ」
「もう……そう言うことが言いたい訳じゃないのに」
「はぁ、俺が悪かったよ。バッテリーのことは何も心配していないから大丈夫だよ」
どうしても真琴には甘くなってしまうよ。
「……シスコン乙」
兄妹の戯れを見ながらサインを送る。二番打者も左打者と左利きの美智瑠さんとは相性がいい。
一球目、アウトコース低めのストレートをバッターは見逃しストライク。
四球の直後で待ちの姿勢ならどんどんカウントを稼いで行く。二球目も同じコースに見逃しストライク。
早く追い込んで次は相手バッターも勝負してくる。繊細なコントロールお願いしますよ。
三球目、前のボールから少し外れたコースを相手バッターは振り遅れながらも当てる。
これをサードが捕球して、セカンドに送球。尚美先輩が流れる動作でセカンドベースを踏み、ファーストに送球したボールはバッターは間に合わずにダブルプレーが成立。一気に2アウトにした流れのまま、三番バッターを見逃し三振に仕留めて何とか打者三人で終えた。
対してこちらの攻撃、相手投手は美智瑠さんと同じく左腕である。女子としては長身で170cmはありそうな高さから投げ下ろされるボールは打ちにくいだろう。
「こういうときはどんどん振ってもらわないとね」
右打席に立つ小春先輩には三振も恐れずに言ってほしいと伝えてある。
「……ダメでした」
フルカウントまで粘ったものの三振に倒れて戻ってきた。
「角度がついていて打ちにくい印象でした。他の持ち球も見れたらよかったのに」
「上等、次は私が確かめてくるよ」
悠々と右バッターボックスで薫さんは構える。
「……おぉ!」
インコースに来たあわやデッドボールというコースを仰け反りながら何とか交わした。
(速いな。一緒のチームに行っていたら真剣勝負何て出来なかったから相手でよかったわ)
二球目、縦に大きく曲がる変化球が放たれる。
放物線を描くような軌道で投げられたカーブに完全に振り遅れてしまう。
(変化が大きいし、手元でよく曲がる。これは厄介かもな)
三球目、四球目とカーブが印象付けられてしまい、この二球を空振り、三振となる。
「光、あのカーブはやばいわ」
「あはは、あんなにタイミングが外された薫さん見るの久しぶりでしたよ」
「……うっせ」
打席に向かう光に激励の意味で胸を軽く叩いてベンチに引き下がる。
「あー、私までかっこ悪いところ見せちまった」
「早いうちに相手の変化球が見れてよかったよ」
ただでさえ上背があるところから投げられるカーブは視線が上に行きやすくなるから肩が開いて自分のバッティングがしにくくなる。それに加えて威力のある直球と楽な相手ではないだろう。
「光のバッティングでどうなんでしょう?」
「……知らないのに三番にしたの?」
真琴から冷たい視線を向けられたが、俺自身あまり光のバッティングを見たことがない。本人から強い希望でクリーンアップを打ちたいというから今回は汲んであげた訳だ。
高い金属音が鳴り響き、ボールは二遊間の間を抜けていた。
「光はあれで器用な人ですよ」
由香さんがヘルメット片手に持ちながら話しかけてくる。
「あいつ普段はへらへらしているのにやる時はやるんだな」
「……光が聞いたらまた文句を言われますよ」
そして次は、四番の夏夜が右打席に立つ。
(高校初打席、この打席だけはチームのことよりも監督のために打つことを許してください)
同じ学年でありながら真摯に私たちの指導に取り組む監督の姿に夏夜自身何とか報いたいという気持ちがある。
一球目、夏夜は迷うことなくアウトコース低めのストレートをフルスイングした。
打球はセカンドの頭を超えていき、右中間広々と打ち破る辺りで飛んでいく。
(今日のライトの肩なら問題なく行きますよ)
ランナーの光はセカンド、サードベースと周りホームを狙う。ライトからセカンド中継で鋭い返球がキャッチャーに行くもタッチ交わした見事なスライディングで1点を先制した。
「ナイス私!見事な走塁」
光はベンチに戻りながら選手たちとハイタッチを交わしていく。
「しっかりとノックから相手選手を見てたから出来たいい走塁だったよ」
「うわ……宗輝さんがデレましたね?」
「デレてねーよ。さっさと水分補給でもしていろ」
「……くっそ、舐めてたつもりは無かったのにな」
天久女子学院で先発投手の
2アウトまではよかった。その後の三、四番への勝負が単調過ぎたと。
「はぁ……あの四番は厄介だよまったく」
二塁打で先制点を奪ったという顔色一つ変えないと来た。
(中学のときにちらほらと顔見たことがある奴がいるし、もう一度気を引き締めるぐらいで行かないとな)
後続をしっかりとピッチャーゴロに仕留めて何とか1失点で食い止めた。
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