対外試合
「練習試合を組んで来ましたよ」
((……何言っているだこの人?))
双子が入部して本格的に野球部が始動し始めて二週間が経った頃に突拍子もない事を言って来た。
確か現国の担当で三船先生とか言った気がするが、まさか野球部の顧問をしていたとは初耳だった。
「みんなが頑張って先生も何か手伝いたいと思っていたから何とか申し込みを受けてくれた学校を探して来ました」
未だに二十代の先生はジャージ姿で満足そうな表情をしている。
「それはありがとうございます」
「予定は今週の土曜日。向こうからわざわざいらしてくださるから粗相の無いようにお願いね」
……先生、急すぎませんか?いきなりだが、これは折角先生が用意してくれたチャンスだと思わないとこの急展開に対応出来ない。
「相手は天久女子学院よ。じゃあ、先生は詳しい時間を決めて来るから後は頑張ってね」
嵐のように去って行く三船先生に俺らは何も言うことが出来ずに立ち竦んでいた。
「みんな本当に急だが、練習試合が決まったよ」
三塁ベンチで俺たちは緊急ミーティングをしている。
「いきなり練習試合ですか。三船先生を褒めたいですが……あぁ、頭痛が」
「由香さん落ち着いて、ここのみんな誰も状況を把握出来ていないから」
本音を言えば相談して欲しかった。
「で、コーチどうするよ。練習はして来たつもりだけど、準備不足は否めないぞ」
確かに練習量は充分だと思う。彼女たちは飲み込みがいいからどんどん上達しているし、試合も形になるとは思う。
「宗輝コーチ、サインとかどうしましょう?」
「小春先輩言わないでください」
そうなのだ。まだまだ練習試合は先のことだと勝手に考えていており、サインを全く決めていない。他にも打順や選手の起用方法とか考え出すと……俺も頭痛が。
「いや、選手は試合に備えてしっかりとコンディションを整えてくれたらいい。あとは俺がしっかりと準備するから」
気づけばコーチと言うよりも監督になっているが、乗りかかった船だ。今更後に引くつもりは無い。
その夜、俺は自室で簡単にだがサインを決めてスタメンについて考えていた。
「守備位置は今の通りで最初は行こう。けど、尚美先輩も投げさせたいとなると新しいポジションでどうにかなるか」
尚美先輩が投手のケースを考えての練習も考えていたが、如何せん時間が足りない。
「何処か……何処か万能に守備が出来る選手でも入れば」
…………いるな。あいつの出場を相手チームが認めてくれるのなら尚美先輩も登板させると言ったケースが試せる。
「そうと決まれば早く電話しないとな」
まずは了承を得て、明日になったら三船先生に相手チームから出場の許可を得よう。
(しっかりと彼女たちに自信を与えてあげられる試合をしよう)
「いよいよ明日が試合だ。時間は午後からで一試合のみ、俺はもちろん勝ちに行くつもりで行くからな」
あっという間に試合前日を迎えて最後のミーティングに望む。みんなやる気に満ちた表情をしており、俺は満足気に頷く。
「明日は美智瑠さんが六回で尚美先輩には三回と継投で試して行くから二人ともそのつもりで頼むよ」
「ボクのデビュー戦、いいスタートを切らないとね!」
「…………いいところ見せるチャンスだ」
尚美先輩が小声で何を言っているか分からなかったが、二人とも準備万端そうで安心した。そしてスタメンはこの形で行くことにした。
一番 レフト 宮本 小春
二番 サード 須田 薫
三番 キャッチャー 水無瀬 光
四番 ショート 宮本 夏夜
五番 ファースト 伊藤 由香
六番 セカンド 藤堂 尚美
七番 センター 宮本 千秋
八番 ピッチャー 福原 美智瑠
九番 レフト 桐生 雫
今考えられる限りではベストオーダーを組んだつもりだし、善し悪しに関しては試合を行うまでは分からない。
「あとみんなには伝えるのが遅れたが、明日は助っ人を用意している」
例の件が相手チームから許可が下りて、ようやく伝えることが出来た。
「コーチ、それは私たちが信用出来ないと言うことですか?」
夏夜が言いたいことは最もだが、今現在のこのチームで尚美先輩を投手にした時に話にならないと判断したからだ。
「そうだよ。このメンバーで尚美先輩を投手にした時に何も得られることが無いと思ったからだ」
ここで反論されても仕方ないが、今回ばかりは圧倒的に時間が足りなかったんだ。出来れば彼女たちにもそれを理解してほしい。
「分かりました。私は監督の判断に従います」
「ありがとう。夏夜」
何とかみんな納得してくれホッと一息つく。
「宗輝さんが助っ人を頼むってことは私たちよりも上手いんですよね?」
今度はまだ見ない助っ人について光が聞いてくる。
「もちろんだ。俺が知っている限りで最高の選手に頼んだから当日楽しみにしてくれ」
彼女を見て一緒にプレーをしてくれたら彼女たちの中でまた成長するきっかけになる筈だ。
今日は軽めの調整と明日に向けての準備を済ませて早く上がることにした。
自分が出場出来ない試合なのにまさか自分が出場する試合よりも気持ちが上がるとは思わなかったな。
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