白球少年 2

「……この前推薦したところ負けてる」


高校入学と同時に与えられたスマホを片手に春季大会の結果を確認しながら、学校見学のときに見えた野球部のことを思い出していた。


二、三人はいい打者がいた気がするけど、それ以上に守備を軽視する傾向にあったからかな。

それも野球をしていない今となっては、考えても仕方ないことなのですぐに考えるのをやめた。


そうしているうちに入学してからすでに二週間は経とうとしている学校の姿が見えた。

四条高等学校。数年前まで女子校で男子生徒の人数も年々増えては来ているが、未だに自分を含めても全校生徒の男子生徒は2桁に行くかも怪しい。

その辺の情報を含めて調べたうえで入学しているので藍原本人としては文句を言う筋合いはないが、


「……やっぱり気まずいよな」


拝啓、中学時代の友人たちよ。

君たちは女子校に混ざりたいと言っていたね?

正直に言おう。やめておきたまえ、入学してまだ浅いがすでに心が折れそうだよ。

クラスには、自分以外の男子生徒は見えないし、先生ですら女性で男性教員を雇った記録も無いときた。

ーー共学にするにはまだ早すぎたのではありませんか?


窓際の席に座り、荷物を整えると一日でも早くこの気まずい馴れなければと自分に喝を入れる。


「あのー、藍原さんですか?」


突然声を掛けられたことに身体を震わせながらも聞こえてきた方に視線を向ける。


「あ、はい。どの藍原かは知りませんが、俺も一応藍原を名乗らせてもらっています」

「やはりですか!私、隣のクラスの水無瀬と言います」


水無瀬と名乗った少女は俺のことが分かると声色を弾ませている。……モルモットか何かと思っているのか?

この高校で男子生徒は物珍しいから何となく話しかけて見たと言ったところかな?


「それで隣のクラスの水無瀬さんが俺に何の用ですか?」

「あっ、そうそう。これを確認して見たかったんですよ!」

彼女は鞄から雑誌を一つ取り出すとその表紙をこちらに見せてくる。


「月刊ベースボール。この表紙の選手って藍原さん本人ですよね?」

「た、他人の空似じゃないかな?……ハハ」

その雑誌はシニアで出場した全国大会のことをまとめた雑誌で当時の自分が表紙を飾っていた。半年前の雑誌を彼女が何で持っているんだ。


「本当ですか?」

「……すみません。嘘です」

彼女の真摯な瞳に見つめられ照れくさなってしまい、一瞬にしてこちらが折れてしまった。


「やった!これで私の昼ご飯はオムライスです!」

「おい、俺のこと賭け事か何かの出しにしただろ!?」

水無瀬さんは、吹けてもいない口笛を吹きながら視線を逸らしてきたので、疑問は一瞬で確信に変わった。


「けど、藍原さんのことに興味を持ったのは本当ですよ!」

「はぁ、そんなこと信用出来るわけ無いだろ?」

「いえ、厳密に言うと私じゃなくてが藍原 宗輝さんに興味を持ったと言った方が正しいんですけど」

突然本名を言われたことに身構えたが、あの雑誌を見ているのなら本名くらいは書いてあるかと心を落ち着かせた。


「詳しくはお昼休みにお話とかですか?」

「……断る」

「やはり女の子の誘いには乗り……来てくださらないんですか!?」

「行かない。どうせ野球の話なのは目に見えているし、それなら俺はなおのこと行くわけには行かない」

野球から離れるために選んだ先で進んで話をしようなどとは思わない。


「……登校中に一人で野球のこと呟いていたのにですか?」

「お、お前……ストーカーかよ」

「ストーカーではありませんよ!たまたま通学中に見かけたら、藍原さんが勝手に呟いていただけですよ」

大したことをしていた訳でも無いのに、誰かに聞かれただけで無性に恥ずかしく感じてくる。


「まあ藍原さんの悪いようにはしませんから…ね?」

「それがそもそも怪しいんだよ」

俺の中ではすでに水無瀬さんは、信用出来ない部類に当てはめられている。

「でも、藍原さんが来ないとなると私たちが集団で押しかけることになりますね」

「……最悪だな。お前」

すでに俺の中で退路は途絶えていたという訳か。

そうなるとこちらはどうすることも出来ないので、水無瀬さんが言った当初の予定通りに昼休み彼女たちと話をすることに渋々決めた。

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