★★――タクシードライバー (1976年)

 大都会ニューヨークを走り続ける元海兵隊のタクシー運転手――トラビスが、怒りや虚しさ、逃れられない孤独感から徐々に精神を病み、ついには自分の存在を世間に知らしめるため過激な行動に走る姿を描くアメリカン・ニューシネマの最後期にして代表的な作品。


 監督は『ディパーテッド』『沈黙 -サイレンス-』のマーティン・スコセッシ。


 主演は『ゴッドファーザー PART II』『未来世紀ブラジル』にも出演したロバート・デ・ニーロ。作者と同世代の方は、昔に『はねるのトびら』というバラエティー番組で芸人のロバート秋山がやっていたやつと言えば、ピンとくるかもしれません(笑)。

 また『羊たちの沈黙』『エリジウム』にも出演したジョディ・フォースターも配役されています。


 さてこの映画ですが、最近のハリウッドのエンタメ映画を見ている人にはちょっと物足りないかもしれません。


 というのも、作品のほぼ全編がトラビスという人間に焦点を当てた日常者であるからです。


 淡々と続くトラビスの日常に、ちょっとの刺激があってそれに当てられたトラビスの姿を描いていますが、これまで作者が見てきた作品に比べるとキャラクターの変化が小さく微妙な感じです。

 まぁ、作者自身がアメリカン・ニューシネマなどのジャンルに拘って観ているわけではないので、相対的に現代の作品と比べてつまらないとは言いませんが、現代の人から考えると、選り好みが激しい気がします。


 雰囲気としては白人と黒人の差別の遺恨が残っている当時の空気がありますし、画作りも長回しのカットが入ったり、トラビスの乗せた客が黒人に女房を寝取られたことを突然独白したり、トラビスは購入した銃を身につけて部屋で撃つ練習をするなど、他の映画とはまた違った登場人物たちに感情移入を拒むようなギスギスと乾いて行き詰まった息苦しさがありました。


 またトラビスもデートに誘った女性にポルノ映画を見せたと思ったら、売春していた少女を諭したりと、かなりキャラとしてはムラがあります。

 しかし、そんな彼が最後に起こした行動の顛末を見ると、なんというか、英雄ヒーローになり切れなかった男という風に作者には受け取ることができましたし、それが序盤で彼に向けられた矛盾した存在という言葉がぴったりと当てはまっているように思えました。


 派手なアクションや音楽があるわけでもなく、崇高なテーマが感じられる訳でもないので、今のポップで分かりやすくて簡潔な映画とはまったく違う雰囲気ですが、その不思議な感じが独自の雰囲気を作り出しているので、その空気感だけでも楽しかったです。

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