★★★――羊たちの沈黙(1991年)

 猟奇殺人犯に立ち向かうFBI訓練生と、伝説の人食い精神科医の心理戦を描いたサイコスリラーの傑作。

 映画をあまりに見ない人も名前くらいは聞いたことがあるであろう今作。私もその部類であったが、今回初めて観させてもらった。

 パッとした全体の印象としてはストーリーの進行を担う主人公はFBI訓練生であるクラリスであるが、作品を象徴する存在はやはり、精神科医でもあり殺人鬼でもあるハンニバル・レクター博士だろう。


 クラリスにガラス越しに相対するレクター博士の登場は出だしから強烈であるし、時間が経過するにつれて博士の持つ狂気感が露わになっていくがとてつもなく怖い。


 レクターの狂気性に関しては周りの人々も証明していて、冒頭クラリスがレクターの収監されている刑務所を訪れ、担当であるチルトン博士からの規則説明の最後にレクターに襲われた看護師の写真を見せるのだが、劇中で写真そのものを見せるのではなく言葉だけで説明するところ場面がある。

 ここで見せないということは見せられないほどの酷く状態だということを暗に示しているだろう。

 またレクターがクラリスに出すヒントには言葉遊びなども含まれているので言葉がかなり重要な位置を占めていることもわかる。


 他にこの作品を観ていると顔をアップで写した場面が多く、人物が主役で場所は演出のための道具に過ぎないことも分かった。


 例えばクラリスとレクターの最初の面会の際に資料を受け渡すシーンがあるが、資料そのものが大きく映されることはなく、あくまでカメラはクラリスとレクターの顔の表情を追っているし、誘拐して殺した女性の皮を剥ぐ連続殺人犯「バッファロー・ビル」の住まいに足を踏み入れた時は、飛び交う蛾や重苦しい音楽などの演出が「バッファロー・ビル」の恐ろしさを助長している。


 そして最後のクラリス捜査官と連続殺人犯との暗闇での探り合いはホラー映画のようでもあるし、犯人の情報を教えた報酬として移送のための仮の施設からのレクター博士の逃走方法も執念と狂気を感じるものであった。


 それにしても作品を見る前にポスターだけを見た時はなぜ、こんなに奇怪なポスターなのか謎であったが、見終わってからなるほどなと思った。

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