第64話 Emergency Call -Ayaka side-

20●●年12月20日。21時18分。


「ふぅー。やっと地獄からの解放だー」


怒涛のごとく押し寄せる団体客をしのぎ切った私は、アパートのソファで安堵の笑みを浮かべた。だが、晴れやかな気持ちとは別のところに、3日ほど前から続く漠然とした不安が滞っている。


「あの、今頃何やってんだろ・・・」


iPhoneの画面に見慣れない着信が表示されたのは、そんな独り言を呟いた直後だった。


ブー、ブー、ブー、ブー、


「通知不可能?あっ、これって海外からじゃん」


不審がる私が慌てて応答をタップすると、受話口からボソボソと喋る男性の声が聞こえてきた。


「・しもし。も・もーし・・・」


(え?カズさん!)


「はい。聞こえてるよ。どうしたの!?」


「アヤカ、時間がないから手短に話すよ。メモ取って」


(一刻を争う状況だ!)


抜き差しならない空気感がひしひしと伝わってくる。


を食った私は、文句の一つでも言ってやるつもりでいたが、どうやら無駄口を叩く暇はなさそうだ。


「俺たちは今、ドラゴンフラッグのアジトで拘束されている。場所は、19.898084, 101.13xxxx」


「OK!繰り返すよ。19.898084, 101.13xxxxね」


「自業自得だよな。でも・・、もしまた会えたならプロ・・・」


プッ、プープープープー・・・・。


「えっ!?何?何よ!!」


私は、マリファナで酩酊する頭を奮い起こした。


カズさんとナオキくんは危険を承知で乗り込んだのだ。


まさに「自己責任」である。


だが、時に人は負けると知りつつも挑まなければならない。


それこそが、何ものにも代えがたい「人間讃歌」だからである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る