第63話 กรุณาไม่ตาย -Kazu side-

20●●年12月20日。21時15分。


 監禁されてから二晩目の夜に突破口が開いた。

なんと、が俺たちの部屋まで携帯電話を持ってきたのである。


「どうしたんだよこれ?見つかったらハゲに何されるか分かんねーぞ!」


「・・・・・」


「あ、わりぃ。怒ってるわけじゃねーんだ。怖かっただろ?危険を承知で届けてくれたんだよな?」


すると、今まで言葉を発しなかった少女は目を伏せたまま呟いた。


「กรุณาไม่ตาย・・・」


「・・・・・・。カズさん・・・、こ、こいつ、俺たちに死なないでくれって・・・。ありがと・・・、ほんとに、ありがとな・・・」


胸を詰まらせる相棒が苦悶の表情で礼を言うと、枯れたはずの少女の瞳からも大量の涙があふれた。


     ※     ※


(頼む!頼む!繋がってくれ!)


俺は渾身の祈りで携帯を握った。


プー、プー、プー、プー、プー・・・


7回目のコールの後。


「Hello, This is Ayaka.」


聞こえてきたのは彼女の声だ。


「アヤカ。時間がないから手短に話すよ。メモ取って」


伝えたいことは山ほどあるが、今は無駄口を叩く暇はない。


「ちょっと待って。すぐ準備する・・・・。OK!いいよ」


「俺たちは今、ドラゴンフラッグのアジトで拘束されている。場所は、19.898084, 101.13xxxx」


一心に訴えたのは、パークベンの宿で頭に叩き込んだ座標値だ。


なぜ?


なぜ、俺はそんな数字を暗記していたのか?


     ※     ※


「カズ、とっておきの極意を授けよう。これはAmazonで買える本では学べないサバイバル術だ。心して聞くように」


「・・・・・」


「窮地を脱するための鍵は、自分の置かれた状況、立ち位置をしっかりと把握することだ」


「・・・・?」


「世界共通のマジックナンバー」


「?!」


「座標値だよ。我々の頭には常にこれが叩き込んである。僅かなチャンスがやってきた時のために・・・」


「座標値・・・。マジックナンバー・・・」


「習慣づけるんだ。バーで知り合ったレディの電話番号も一発で覚えられるようにな。アッハッハハハ。おっと、余計な入れ知恵はやめておこう。にお叱りを受けそうだ・・・アッハッハハハ」


 以前、ベンさんが冗談めいて語ったアドバイスが、いかに的確であったか・・・。まるで彼には、が見えていたかのようだ。


常人の域を超えたセンシビリティ。


わかる必要はない。


」なんてどうでもいい。


     ※     ※


「OK!繰り返すよ。19.898084, 101.13xxxxね」


「自業自得だよな。でも・・、もしまた会えたならプロポーズさせてほしい・・・」


渾身で放った最後のセリフは彼女に届いたであろうか?


リダイヤルした携帯電話のスピーカーからチャージ切れのアナウンスが流れた。


「ナオキ、わりー。もっとさ、建物の中の構造とか拳銃の数とか、知らせなきゃならない情報がいっぱいあったのに・・・」


「いいんすよ。最高じゃないっすか!プロポーズ宣言より重要な情報なんてありますか?このタイミングで言えるなんて、さすがアニキっす。アッハハハハ」


無精髭を生やす二人は、屈託のない笑顔で拳を合わせた。

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