第20話 もう一人の男 -Kazu side-
うっちーさんと別れた俺たちはシェムリアップ川のほとりを歩いていた。
今夜も河畔はカップルたちで溢れ、移りゆく街の姿をよそに、この場所だけは時が止まっているようだ。橋の向こうからアヤカが現れた日の情景が蘇り、どちらともなく握られた手に熱がこもる。
メモリアルベンチに座った二人はレストランでの会話を一つ一つ思い返していた。
「なんだかヘビーな話になってきちゃったな・・・」
「あれ?カズさん、もう後悔してるの?私の前だからってカッコつけたんでしょ」
「そんなんじゃないよ。あまりに急だったんで、どこから手を付ければいいのやら・・・」
「裏社会の闇に挑むカップルってさ。なんだかミステリー小説の世界だよね。社長の言ったとおり、こうなったら腹を決めて楽しんじゃえばいいよ」
リスキーな取材テーマに初めこそ難色を示したアヤカだが、彼女の目は決意に満ちている。
「考えるより先に動けってわけか・・・」
「そういうこと。それとね。唐突だけどL&M作戦にもう一人メンバーを加えたいの」
「えっ?タフな助っ人の心当たりある?」
「まぁ・・、頼れるオジサマってタイプかな。カズさんも会ったことある人だよ」
「う~ん。誰だ・・・」
「ブブー、時間切れ。正解はベンさん!彼なら力になってくれると思って」
「ベンさん」とは昨年の12月にマレー鉄道の旅で知り合った初老の白人男性だ。長いグレイヘアーを1つに結び、優しい風貌と時折見せる鋭い眼光が強く印象に残っている。アヤカがパダンブサールのイミグレーションで一触即発の事態を免れたのも彼のおかげだった。
「OK!さっそく連絡とってみて。うっちーさんには俺からも伝えておくからさ」
※ ※
ひとしきり川沿いで話し込んだ俺たちはアヤカのアパートに帰ることにした。シェムリアップに滞在中は彼女の部屋を自由に使えるので気が楽だ。
「はい、これ。無くさないでね」
「お、サンキュ!なかなか綺麗な物件だね。3階だっけ?」
合鍵を受け取り階段を上りかけた俺は、車道から嫌な視線を感じていたが、これから共にするベッドでの妄想がその憂いを打ち消した。
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