二章 『Enemyはどこにいる?』 その6

 一度漏れてしまうと、ももはもう言葉を止めれなくなったのか、次々と自分の願いを口にした。


「可愛いって、似合ってるよって、こうしたらどうかなって……いろんなことを話せる、友達が欲しいんです……! 一緒に遊んで、ご飯食べたりして、学校でも一緒に居たりして、それで……それで……っ」

「……そっか。師匠みたいに強くなりたいだけじゃなくて――師匠と、友達になりたかったのか、ももちゃんは」


 ようやく、正しく、内貴はももの願いを理解する。

 すると、まくしたてるように話していたももは、ほぅ、と小さくため息をついた。少し疲れたのか、肩を落としながら。


「わたし、なんでこんなこと、言っちゃったんでしょう」


 なんてことを、内貴に言う。言ったことを後悔しているのかもしれない。

 だけど、少なくとも、内貴にとってはももの本音を聞けたのはいいことだった。

 ももの力になれることが、よくわかったから。


「ももちゃん」


 内貴は、潰した缶と飲みかけの缶ジュースを地面に置いて、ももの目の前まで歩いて行った。


「俺は……ももちゃんのこと、可愛いと思う」

「……えっと。それはその……ありがとうございます……?」

「だから、そんな可愛いももちゃんと友達になれたらすごく嬉しい」


 へ、と。

 ももの口から間抜けな声が漏れた。可愛いと間の抜けた顔でも可愛いんだなぁ、なんて思いながら、内貴は苦笑気味に言葉を続ける。

 ももの力になろうと、言葉を続ける。

 真面目なだけの自分だから、言葉に想いを真っ直ぐに乗せて、届ける。


「俺も男だから、可愛い子と友達になれたら嬉しいんだよ。それに、ほら、俺も友達いないし。だから、さ。――友達に、なってください」


 手を差し出して、同時に頭を下げる。

 なんだか告白でもしているみたいだと、ちょっと笑いが込み上げてきたが、ぐっと飲み込んだ。真面目な場面だ。笑う所ではない。

 手を取ってくれるだろうか? と、ドキドキしながらももの反応を待つ。

 すると、頭を下げている殻顔は見えないものの、どこか優しい響きの声が返ってきた。


「友達っていうのは、頼まれてなるものじゃないです。多分」

「もっともな話だけど、俺も友達の作りかたなんて知らないんだ。許してほしい」

「もっと、時間をかけて、自然に仲良くなってこそ友達だと思います」

「……いや、本当、俺もそう思うんだけどね? そこをどうにかと言いますか」


 ……あれ? 俺、ももちゃんの力になろうと思って頭下げてるんだよな?


 内貴はなんだか自分の今の状況が分からなくなってきた。女子中学生に『友達になってください』と頭を下げている男子高校生。

 傍からみたらギリギリアウトなのでは? などと冷や汗をかきはじめていると、不意に指先に柔らかい感触が触れた。


 なんだ、と思って顔を上げる。

 すると、ももが、膝を抱えたまま。どこか恥ずかしそうに頬を染めて、視線を反らしながら、手を伸ばし。指先で内貴の指先を、くすぐるように軽く擦っていた。


「だから……特別ですよ、内貴さん。普通、こんな風に友達になるなんて、ないんですから」


 ももが、そっと指先を握る。その瞬間、内貴はなんだか無性にうれしくなって、全身が熱くなって、思わず一歩近づいて、ももの手をとり強く握った。


「ありがとう! よろしくな!」

「ち、近い、近いです……っ! あといきなり手を握っちゃダメですっ。セクハラですっ、セクハラっ」

「友達だしセーフセーフ!」

「友達でも線引きは守ってくださいっ」


 もう! と頬を膨らまし、勢いよく立ち上がって内貴の手から逃れるもも。

 しばらくほっぺたを膨らませていたが、やがて、『ぷ』とこらえきれないように笑いをこぼす。


 今日初めての、心からの笑いをこぼす。

 同じように内貴も自然と笑い出しながら、思った。

 ちょっとは力になれたかな――と。


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