ダイベニスト!!
七歌
ダイベニスト!!
プロローグ『想定外のencounter?』
プロローグ 『想定外のencounter?』
入学式の日に、緊張でお腹が痛くなって、たまらずトイレに行った。
それが始まりだと、彼はまだ知らなかった。
×××
女の子に抱き着かれたらどんな感触だろうかと、女の子と付き合ったことのない健全な男子高校生ならば誰しも妄想したことがあることだろう。
おっぱい当たるのかな、とか。
腕とか回したらどんな感触するんだろう、とか。
いいにおいするのかな、とか。
抱き着かれたらこっちからもどっか触ったりしていいんだろうか、とか。
様達(ようだつ)高校一年一組に所属する男子高校生、花積 内貴(はなつみ・うちたか)も、当然のようにそのような妄想をしたことがあった。
クソほど生真面目と称される内貴だったが、それはそれ。生真面目だからこそ一度妄想が始まるとノンストップなところがあった。
そう。
内貴は何度も考えたことがあったのだ。
女の子に抱き着かれたらどんな感触なのか、時に胸をときめかせながら考えたことが何度も何度もあったのだ――だというのに。
「なんっ……なん……でっ……!」
内貴は呻いた。床に仰向けに倒れながら。
腹の上には重みを感じている。柔らかく、しかし、内臓を確実に圧迫してダメージを喰らわせようとしてくる重みを感じている。
重みの主は少女だった。……今現在、内貴は少女に抱き着かれていた。夢にまでというのは大げさにしても、何度か想像した憧れの『女子に抱き着かれている』というシチュエーション。
だが、おかしい。
なにもかもがおかしい。
まず場所が男子トイレなのがおかしい。次に、内貴は少女に抱き着かれると同時にほぼタックルのような勢いで床に押し倒されて背中が痛いどころか息をするのも苦しい状態なのがおかしい。
なにより極めつけに、少女の顔がおかしかった。
「く……くく……ふ、く、くくく……っ」
少女は笑っていた。おおよそ平均的な少女の笑い声とは言い難い、どこか悪魔的な怪しさ抜群の笑い声を漏らしていた。顔を引きつらせる内貴に構わず、少女はわずかに血走らせた目をぐっと近づけて、吐息が鼻先をくすぐるほどの距離で、内貴の顔を覗き込む。
吐息と髪の毛からはちょっぴりいいにおいがして、それだけがこの状況での救いだった。
「ようやく時間が取れたよ……まったく、キミっていう人間は、厄介なヤツとつるんでいるから大変だった」
何を言っているかさっぱりわからない内貴だったが、それでも二つのことだけは理解できた。
まず一つ、目の前の少女はそこそこ可愛い部類だということ。肩口ほどの長さの髪はクセが強いがそれも似合っていて、悪魔的な笑みを浮かべる口元を除けば気の強そうな可愛い女の子だった。
それと、もう一つ。
「さぁて、どうしてあげようか? 何から話そうか。それとも、まずは体験してもらおうか――いざとなると迷うものだよ、本当に! 私という人間は昔から優柔不断で困る!」
嬉々として声を弾ませる目の前の少女の目が、明らかに獲物を狙う野生動物のそれだということを、内貴は理解した。
男女の体格差があるとはいっても、心理的に女子を押しのけて逃げることは内貴にはできない。
何か尋ねようにも、異様な圧力を放つ目の前の少女にかけるべき言葉を、コミュニケーション能力が高いとは言い難い内貴には見つけられない。
結論として。
内貴は呻くように呟くしかなかった。
「想定外が……過ぎる……!」
呟いて、思いだすしかなかった。どうしてこんなことになったのかを――目の前の現実から、逃げ出すように。
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