第47話 夢叶う

購入したベビーグッズが家に設置されていき、リストアップした物の準備が整った。


そしていよいよ、由梨は医師と相談の上、管理入院をすることになったのだ。


個室に入院した由梨は、はち切れそうなお腹を抱えて動くのも一苦労。

もうすぐ37週。

ここまで順調に過ごしてこれたのは、貴哉と麻里絵のお陰かも知れない。


「紺野さん、どう?」

検診ですっかり馴染みになった産科医の三浦先生と、そして後ろには渉ともう一人医師が立っていた。


「変わりないです」

「うん、でもお腹張ってるよね」

お腹に触れて、三浦先生が言った。

「ですね…」

「あと、もう少し持つといいなぁ」

「はい、そうですよね…」


「小児科の福と、白石です。紺野さんのベビーちゃんは双子ちゃんですから小児科側からもこれから診察に立ち会いますね」

「よろしくお願いします」


医師と看護師に囲まれると、それだけでドキドキしてしまうが仕方ない。


「うん、赤ちゃんは元気だし頭も下だし、普通分娩で準備を進めていいかな?」

「はい」

「途中で帝王切開になることもあるから、それは覚悟しておいて。これは双子に限らずだから深刻に考えないで」

三浦先生が励ますように言った。


診察を終えると、

「張りどめは出してるけど、おかしかったらすぐに知らせて」

「はい」


がらがらと、診察の機材が部屋の隅に直され、ぞろぞろとみんな出ていく。

(患者になるのって…不安が拭いされないものなんだ)


そして、入院中に和花が顔を出してくれた。

「元気?」

「元気だけど、もう苦しくって」

「あと、もう少しだね。頑張れ、オペになったら私が見届けてあげるから」

「のん、頼もしい…」

くすくすと由梨は笑った。

高校からの一番の友人だ。頼もしいことこの上ない。


そして、入院して数日後…。


由梨のお産は破水から始まった。トイレに行った時に、何かおかしい気がしたのだ。

「うん、お産にしようか」

診察した三浦先生の言葉に由梨はどきんとする。


いよいよだ…、ここからは未知の世界だ。

亜弥の言うとおり、陣痛は半端なく痛くてまだまだと言われる度に、泣きたくなる。

駆けつけた貴哉に、陣痛の度にさすってもらったり、苦しむ姿を、見せたくなかったけど、手を離すことは出来なかった。


助産師が陣痛と共に下の方からテニスボールで押してくれると、少し楽になり果てしなく続くんじゃないかという痛みに耐えた。


「だいぶ降りてきたね、そろそろ息もうか」

由梨は言われるがままにいきんで、何回目かで一人目が、そして、数分後に二人目が生まれたよと聞いて、疲労のあまりくったりとしていた。


「上手でしたよ~、とても安産でしたね」


(安産…そうか、これで安産なのか…)


出産の興奮で、疲れてるのに眠気はこない。

ぼんやりとした意識の向こうで二人分の産声が聞こえる。


「少しだけ抱っこね」

助産師が小さな赤ちゃんが胸の上にのせてくる。何とも言えない、不思議な気持ちだ。


「お姉ちゃんのほうね」

「次は弟くんよ」


看護師たちがそのまま連れていって、保育器に入るのだろう。

「お疲れ様。由梨、ありがとう」

貴哉がそう言って、手を握る。

「いっぱい、叫んじゃったかも…」

なるべく我慢したけれど、実ははじめの方は叫んでいたかな、とも思う。

「大丈夫だったよ」

貴哉の声は優しさがある。

「赤ちゃんたち見てくる」

そう、言うと部屋を出ていった。


しばらく休んでいた由梨のもとに、貴哉が戻ってくる。

「小さいけど、元気に泣いてたよ」


ビデオカメラの小さな画面には保育器に入ってる小さな赤ちゃんの姿が写っている。顔はまだ浮腫んでいて、おサルさんみたいだ。


「少し、寝るといいよ。半日はかかったんだから」

「うん…」

じっとビデオをみている由梨に貴哉がそういった。


数時間後、歩行を許された由梨は新生児室に貴哉と入った。


「二人とも、とても元気。上手なお産だったね」

渉が手を入れる窓を開ける。

そうか、渉もあの場にいたのか、と思うとものすごく複雑な気持ちだ。

「触っていいよ」

指先をちいさな手が握る。

「ちっちゃい…」

「弟くんのほうがお姉ちゃんよりすこし小さめ、だけど、飲みもいいし心配いらないよ」


渉はそういうと、安心させるように笑う。


「良かった」

由梨は心底からそう思った。

泣いてしまうかと思ったけれど…不思議と涙は出なかった…。泣き虫だったはずなのに、小さなその命が愛しくて何度も何度も撫でた。


***


小さめながら、元気な双子たちは無事に退院して育児が本格的にはじまる。


予測通りというか、貴哉はきちんとイクメンで…。

家にいるときはお風呂から、ミルクの作り方から、オムツから全てやってのける。


高阪さんが家事を引き受けてくれたので、由梨は今のところは気が狂う事もなく過ごすことが出来ていた。


家にはどーんと巨大なおむつケーキが、ソノダクリニックのスタッフたちから届き、和花たちからはお揃いの服が届いた。


貴哉の関係者たちから聞いていると、どうやら由梨は貴哉の思惑(?)にがっちりはまってしまい、まるで詐偽まがいの結婚をしてしまった訳だけれど…。


こんな詐偽なら、遭ってよかったのだと…。


家のリビングに飾られた、結婚式とそして退院の時にとった家族四人の写真を由梨は見つめた。


そのどちらも由梨はとても幸せそうに微笑んでいる。

それが全ての、答え。


「由梨、オムツ終わったよ」

貴哉が女の子…由貴を連れてくる。

「じゃあ、交代ね」

と由梨は、授乳していた透哉を貴哉に抱かせる。


溺愛してる貴哉を見せたら、彼の会社の人など、周囲のみんなはどんな顔をするのかなと、由梨はおかしくなってつい微笑んでしまう。


明るい日差しの家で、こうして旦那様と赤ちゃんと…。

由梨の想像したストーリーではなかったけれど、夢に描いた『お嫁さんになって、赤ちゃんを産む』は叶えられている。

それも、いっとう素敵な相手と共に...!



―完―

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まさか...結婚サギ? 桜 詩 @sakura-uta

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