第45話 新たな息吹き
明らかに妊婦体型になりつつある由梨の元に、美香子から電話が入ってきた。
『由梨、お姉ちゃん、産まれたよ』
「ほんとに!会いに行ってもいいかな?」
『こっちは良いけれど、貴哉くんに確認してからにしなさいね。由梨も今は大事な時なんだし』
「はぁい」
由梨は1度電話を切ると、リビングに出てきた貴哉に聞いた。
「それで、行ってきたいのですけど…」
「大事なお姉さんだからね、もちろん良いけど。一人は駄目」
「じゃあ、誰と行けばいいですか?」
「母に頼んでみるよ」
(…と、言うことは高級外車×運転手よね…)
けれどそうでなくてはいけないなら、仕方ない…。
「はい、じゃあお願いします」
内心、がんじがらめな気もするけれど、色々と双子の妊娠について調べいてるらしい貴哉はとても心配性になっている。
彼はとても何事にも完璧さを求めるに違いない
スマホで、彼は麻里絵に淡々と説明して電話を切った。
「ちょうどお祝いも持っていきたかったから、喜んでた」
「じゃあ行って来ます」
「うん、気を付けて」
朝食を食べながら、由梨はまるで今は繋がれた犬の気持ちだ。
ひもをひいてくれる人がいれば散歩出来る。
「なに?」
「なんでも、ないです」
お互いに、好きなのは真実なのに。
夫婦って…一言では語れない物だと言うけれど、すでになんと説明すればいいのかわからない。
文字や言葉にしてしまえば、結局なにが不満なの?と言うことになってしまう。
貴哉が仕事に出掛けて、8時になると高坂さんがやって来る。
「おはようございます」
「今日も、お願いします」
由梨は高坂さんを家にあげる。
広いこの家も、高坂さんはいつも綺麗に掃除をしてくれる。その仕事ぶりは完璧だ。
掃除と、夕食の買い物を頼んで由梨は迎えに来た麻里絵の車に乗り込んだ。
この日の服も、もちろん麻里絵の買ってくれたものから、ふんわりとしたブラウスとウエストリブの膝丈のグレースカートと、カーディガンを合わせた。
「お姉さんの次は、由梨ちゃんね」
麻里絵の目は
「なんだかドキドキしてしまいます」
病院に、運転手つきで来るなんて、見るからにセレブじゃないか…。
しかし、由梨は自分はそのような身分じゃないと思ってるのに、そうした生活を送っているのは現実だった。
「由梨来れて良かった。麻里絵さんも、ありがとうございます」
新生児室の前に立っていた美香子が、由梨に気づき声をかけた。
「いえいえ、おめでとうございます」
由梨は、日廻ひまわり亜弥ベビーとかかれたピンクの帽子を被った赤ちゃんを見た。
とても小さくて、かわいい。少し慶次郎と似ているように思えた。
美香子と麻里絵が話始めたので由梨は亜弥の病室に向かった。
亜弥のいる病院は、綺麗な個人病院で、とても人気があるそうで、
ディナーかあったり、プールがあったり、と充実しているらしい。
「お姉ちゃん、お疲れ様。赤ちゃん、可愛いね~じろうくんにちょっと似てる」
「じろうに似たら可愛いはずないのに、可愛いから不思議だよね」
「そういうもの?」
「うん。ちなみに、すっごく痛いから、覚悟決めなさいよ~」
「うん…」
「必ず、その時はくるんだからね」
「はい…」
「なーに、沈んでるの」
妊娠後期に向けて着々と日が進むなか由梨は幸せな気持ちと、大変な気持ちと半々だ。
「ねぇ、由梨はこの子の名前、どれが似合うと思う?」
ぴらっと渡された紙には名前の候補がかかれていた。
日廻 菜奈・ 美亜・ 心春
「どれも可愛いと思うよ?」
「だから悩むの~」
亜弥は紙の裏にたくさん、漢字とひらがなとカタカナで書いている。
「なな、とか名字とのバランスも良くて私は良いと思うけど。こはるちゃんも可愛い」
「よし、やっぱり菜奈にしようってじろうに言おう」
「それで、いいの?」
「うん!スッキリ」
「由梨の所は二人だもんね、悩むね~。性別わかった?」
「男女かなって」
「へぇ~、いいね。一気に男の子と女の子が産まれちゃうなんて、大変そうだけど」
「もう、不安だらけ」
「でもさ、由梨は今お手伝いさんとかいてる生活でしょ?」
「恥ずかしながら…」
「助けてもらえるなら助けてもらっていいと思うよ?授乳だって三時間おきが二人だよ?おむつがえもして、あやしてそれで家事なんて無理だよ」
考えるだけでつかれてくる…。
「へとへとになっちゃうね」
「恵まれた環境なんだから、由梨はどーんと構えて赤ちゃんのお世話頑張って、ね?」
「ありがとう、お姉ちゃん」
由梨と亜弥は部屋を出て、新生児室の前に向かった。美香子たちはまだそこで見ていた。
「亜弥さん、おめでとう。とても可愛い赤ちゃんね」
「ありがとうございます」
亜弥はガラス越しに並んでいる赤ちゃんを見ていた。
「赤ちゃんって、やっぱり父親に似るのかな?」
「そうなの?」
「由梨の所は、そうなると絶対にきれいな赤ちゃんになるよね」
「…あの、完成した顔の赤ちゃんなんて想像できないよ?」
「見せてもらったら?アルバムとか」
クスクスと亜弥が言った。
「この子とじろうの赤ちゃんの時の写真、すごく似てた」
「日廻さーん、時間ですよ」
「はーい。由梨、授乳時間だって、もう少しいる?」
「ううん、そろそろ帰るね。御祝いは家に送るね」
「ありがとう!」
亜弥にリクエストされたのは抱っこひもである。それはすでに購入済みであった。
元気そうな亜弥に笑顔を向けて、
「お母さん、私はそろそろ帰るね」
「そう?あ、由梨。麻里絵さんから御祝いを頂いたわ。貴哉くんにもよろしく言っておいてね」
「わかった」
由梨は麻里絵と共に車に乗って帰宅する。
麻里絵は亜弥の赤ちゃんを見て、一気に楽しくなってきたようで、
「近々、赤ちゃんの物を買いに行きましょう。貴哉も一緒が良いわよね」
「そうですね~」
買わないといけないが、麻里絵の買い物はといえば…。
これまでで、学習済みなので由梨はもう逆らわない事にする。
こうして何やらセレブな麻里絵との買い物に慣れつつある自分が、何だかなぁと…。複雑な気持ちだった。
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