第42話 彼と元彼
4月、妊娠5ヶ月になり腹帯を神社でもらいそれを戌の日に巻いた。
貴哉はこういうことをきっちり調べて、しっかりとする質のようで、とても由梨は意外に思った。
見た目は全く家庭的でないのに…。
検診には、この日麻里絵も付き合うと言い出し、貴哉と3人で桐王病院に向かう。
「そろそろマタニティの服がいるわよね?帰りに買いに行きましょ」
麻里絵が、後部座席から助手席の由梨に言ってきた。
麻里絵の買い物と言えば、まだ由梨は覚えている、あの買い方である。
「あの、麻里絵さん、私自分で買いますから…」
それなりにこれまでコツコツ貯めた貯金はある。
「由梨ちゃん、私の楽しみを奪わないで。由梨ちゃんの赤ちゃんは、私の初孫なの」
「ですけど…」
「なにかせずにはいられないの。体が辛いのも、出産も変わることは出来ないでしょう?」
「確かにそうだよな、由梨。母さんと買ってきたら?」
貴哉に言われては、従うしかない。
検診には貴哉と共に中に入り、エコーを見せてもらう。
「順調ですね。性別は…聞きたいですか?」
由梨は貴哉の顔を窺った。
「わかるなら…」
「じゃあ、教えて下さい」
「うん。じゃあ、見てみるよ~、うまく見えるかな?」
プローブを動かして色んな角度から胎児を映す。
「こっちの子は…男の子、かな?もう一人は…うーん。隠してるなぁ…」
「男の子…」
由梨はぱあっと微笑んだ。
「男の子、嬉しい?」
「はい」
「俺は、由梨に似てる女の子が良かったけどな」
「どっちに似てもかわいい子が産まれるよ。紺野さん」
医師が、浮かれる夫婦に笑いながらそう言った。
いつものようにエコー写真をもらって外に出ると、
「ねぇ、あっちに赤ちゃんが並んでるのが見えるの。行ってみない?」
麻里絵に誘われて新生児室の前の窓を見る。
生まれたての赤ちゃんが並んでいて、とても可愛い。
そうして見ていると、NICUの方から医師が歩いてきた。
「あ…」
由梨はその医師を見て声を上げた。
「やっぱり、由梨だった」
笑みを向けるのは渉だった。
渉は側にいる麻里絵と貴哉に会釈をする。
「もしかして、小児科を選んだの?」
「そう、いつか自分の病院をもって由梨に支えて貰うつもりだったけど…。うん、完全に振られた気分だよ」
渉は苦笑している。
「お前が由梨と別れたのが悪いな。自業自得だ」
「そうだな、うん。その通り、反論の余地もない」
くくっと笑うと
「由梨の出産の時は俺も小児科ドクターとして立ち合う予定だから、よろしく」
「え、そうなの?」
「まぁ、これでも日々医者としては成長してるから安心して」
「あ、そうか。カルテ見たんだ」
「そういうこと」
「では、紺野さん。出産まで、頑張って」
渉はお辞儀をすると、足早に立ち去っていく。
「あの、お医者さん由梨ちゃんの元カレ?」
「…気にくわないけどな」
「あらあら…」
麻里絵は楽しそうに笑いながら、貴哉と渉を見比べている。
「彼の方が由梨ちゃんと親しく見えちゃうわね」
「…比べなくていい」
確かに、相変わらず貴哉には敬語だけれど、渉には普通に話してる。どうしてもそうなってしまうのだ…。
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