第2話
小説執筆ってのはいいけども…
「何でまたBL?何でまたその主人公がオレなわけ?」
理解できない事だらけだった。
他人の趣味をとやかくいうつもりは無いが、白鳥みたいな完璧女子がBL小説書くなんて、その世界に疎いオレには到底想像出来ない。
それに自分がその主人公とか…いやだって、NLを愛する普通の男子高校生なら、誰だって受け入れ難い話だ。
(まだ女子とマトモに付き合った事だってないのに)
なのに…なのに紙の中のオレは、色々と経験済みなのか?しかも男相手にアレやらコレやら…
「何で…何でオレなの?一樹でも良かったじゃん、あいつモテるし」
しつこい様だが、どうにもこうにも理解出来なかったので同じ質問を繰り返した。オレの声は震えていた。まるで狼を前にしたチワワのようだと思ったが、想像すると背筋が寒くなってそんな声しか出なかった。
「あ、それはだって斎藤くんはサッカー部のエースじゃない?顔はいいけど、筋肉質な身体じゃイメージ湧かなくて。その点、市川くんは文化部所属で色白だし、顔も爽やか、全体的に華奢……受けには最適なのよね」
これまでの展開でポッキリと心が折れているオレに、しかし女狼おんなおおかみ白鳥は、たたみかけるように淡々と説明する。
そこに申し訳ないという様子など、微塵も感じられない。
(最適なのよって、されたオレは最高に最悪の気分なんですけど?しかも受け……つまり女子役ってことかよ⁉︎)
テレビかどっかで掻い摘んだ数少ない情報を頼りに白鳥の言葉を分析していったオレは、吐き気すらもよおしてきた。
「オエッ…」
「おえ?おえじゃないよ市川くんうえ、上野くんだよ」
「はぁ?上野?って…」
「だから、隣のクラスの上野くん。柔道部の主将、知ってるでしょ?上野くんが、市川くんの相手役なのー」
上野くんが相手役なのー(はあと)
相手役なのー(はあと)
なのー(はあと)
のー(はあと)
天使のような澄んだ声で、しかし白鳥は容赦なくオレを真っ暗闇の地獄へ突き落とした。
普段のオレは女に対して怒りを顕すようなことはない。思春期も落ち着いた最近はなおのこと、家のねーちゃんに対しても、かーちゃんに対しても。
だがしかしその瞬間、オレの中で何かがプチッと音を立てて切れた。
(ふ……)
「ふっざけんなよ、白鳥!おまっ、おまえこそ上野知ってんのかよ⁈あんなデカくてハゲで目つき悪いタラコ唇!あり得ないだろ!大体だ、BLってのは空想の中のイケメン同士の絡みが良くて、一部の女子がハマってんだろ?なのに……なのに何でおまえのは、どっかズレてんだよぉぉぉ」
今まで他人に対して、こんなにも怒鳴った事があっただろうか?渾身の力を込めて、オレは絶叫した。
が、しかし、か弱そうな天使の容姿は、ただの仮面だったようだ。
子供のように絶叫するオレに、猫目の瞳を刃のように吊り上げて、白鳥はオレを睨みつけた。
「この世界を知らない、市川くんは甘いのよ!普通設定のBLじゃ面白くないし、面白くなきゃ読者も付かないんだから!それに上野くんは確かに見た目はそんなだけど、メチャクチャいい人じゃない!」
白鳥の言葉に、オレは絶句した。べつに彼女の熱意に負けた訳ではない。
(あ、ダメだこの人、人の話聞かない系だ)
ついこの間、自分を正当化しようとする人間に何を言っても無駄だという事を国語の時間にオレは学んだ。ありがとう、
て、板狩先生の事は置いといて。
天使の仮面を投げ捨てて、その姿は鉄仮面さながら、戦闘モード剥き出しのこのお嬢様をどうにかしなければならない。
今のところ、彼女の意見に同意出来るのは上野がメチャクチャいい奴ってトコだけだ。
ってか、今のオレには目の前のコイツ以外なら、誰だっていいヤツに見えただろうさ。
どうせ何を言っても無駄なんだ。オレはこの戦闘を放棄した。
「確かにオレには分かんねーよ。分かりたくもねーし!けど、それとこれとは別だろ。白鳥も上野がいいヤツだと思うなら、そんな小説消せよ、かわいそうだろ」
吐き捨てるように言って、オレはカバンを持ち立ち上がった。帰る。これ以上もうやってられっか、アホらしい。
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