第49話 橋を渡って

そして、次の日。部屋の姿見で服装をチェックしてると、テーブルの上のスマホが振動する。


「もしもし」


「あ、オレ。家のすぐ側まで来たけど」


「はい、今行きますね」


そう答えて、電話を切った。リビングに降りると、お母さんが私を見て言う。


「あら、出掛けるの、結衣?」


「うん」


私は、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、バッグに入れてから家を出た。


家のすぐ側に、シルバーの車が止まっている。


「綾瀬」


私に気づいた佐倉さんが、車から出てきた。


「おはようございます」


「おはよ。乗って」


そう言って、佐倉さんは助手席のドアを開けてくれる。私が乗った後、彼も再び乗り、車が走り出した。


「どこ行きたい?」


聞かれて戸惑った。思わずOKしてしまったデートだったから。


「えっと……佐倉さんに任せます」


そう答える。


「そうだな。じゃあ、明石海峡大橋渡って、淡路島の方に行ってみるか?」


「えっ……」


胸が小さく鳴った。


それは、一昨日の夜、社長と行った場所。


一瞬戸惑った後、私は言う。


「あの……ここから、結構時間かかりませんか?」


「いや。高速に乗れば、40分もあれば着く」


佐倉さんがそう言った後、車が右折する。


「今日は晴れてるし、眺めもいいぞ」


少しして、私達を乗せた車は、高速に乗った。高速は、逆方向は混んでいたけど、こっち方面は空いている。


「私、大橋を渡るの初めてです」


窓から見える山々の風景を見ながら、隣の佐倉さんに言った。


「そっか。オレは仕事仲間と来たり、一人で気晴らしに行ってるよ」


「そうなんですか」


「島側から見る海は、また雰囲気が違うんだ」


そう言った後、佐倉さんがアクセルを踏む。


車は、さらに加速した。


いくつかのトンネルを抜けて、30分ほどで橋に差し掛かる。



(あっ……)


ブリッジから見下ろす位置にある海辺のホテルが視線に止まった。


それは……東条社長と一緒に食事したリストランテのあるホテル。


「どうした?」


私が、ずっと同じ場所を目で追っているのに気づいた佐倉さんに聞かれる。


「あっ、いえ、何も……」


私は、そのホテルから視線を外した。


「海綺麗だろ?」


佐倉さんに言われて、ブリッジの下に広がる海を見る。太陽の日差しを浴びて、水面が煌めいていた。


「はい、綺麗ですね」


東条社長と見たイルミネーションの美しさとはまた違う景色に、目を細める。


「橋を渡ってすぐのところに、サービスエリアがあるから、そこで一度降りよう」


そう言った後、佐倉さんの車は長いブリッジを走り続けた。


そして、渡りきってすぐの場所にあるサービスエリアに入っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る