交差する想い
第23話 社員証
翌日、寝不足で出勤した私は、更衣室で用意をしていて焦る。
「……あれ?社員証がない?」
鞄の中やロッカーの中を見てみるけど、やっぱりない。
(デスクに置いてきた?)
私は、とりあえず更衣室を出てフロアに向かった。
フロアに入ると、佐倉さんがもう出社している。
「おはよ、綾瀬」
「おはようございます」
そう返して、私はデスクの引き出しを開けてみた。
(ないな……)
中の書類なんかをどかして探してみたけど、やっぱりない。
今度はデスクの上を探していると、佐倉さんが私の方を見て聞いてきた。
「どうした、なんか探し物か?」
「あの、えっと……社員証が見当たらなくて」
「社員証?しょうがねーな」
そう言うと、佐倉さんは、私のところに来た。
「この辺に落としてんじゃねーの?」
佐倉さんは長身の体を折って屈むと、私のデスクの下を探し出す。
「すみません!ありがとうございます」
私は、デスクの書類やファイルが立ててある辺りに紛れてないか探していった。
(こんなにないって、おかしいな……)
もう一度思い返して、昨日の夜、バーで社員証を外したことを思い出す。
「あっ……!」
たぶん、あのバーに忘れて来ちゃったんだ。
「何だよ?」
私の声に、佐倉さんが立ち上がって、私の方を見る。
「家に持ち帰って、忘れたとかか?」
「え、えっと……はい」
私は曖昧に答えた。
「ったく、いつまでも新人気分じゃ困るぞ」
「……すみません」
佐倉さんは、私の肩をぽんと軽く叩くと、自分のデスクに戻って行く。
また、デスクでパソコンを操作する佐倉さんを見つめながら、やっぱり似てるなって思った。
佐倉さんは、大学の時に付き合った彼に似ている。
入社当時から、思ってた。
不器用で物覚えの悪い私に、丁寧に一から仕事を教えてくれた。
時には、残業してでも。
ちょっと口が悪くて、冗談言ったり、からかわれたりするけど。
根は優しくて、仕事もちゃんと出来る人。
佐倉さんは、入社4年目で25歳。
菜々美は、3年目で24歳。
菜々美も、入社当時は、佐倉さんに随分世話になったって言ってた。
きっと、面倒見のいい人なんだと思う。
就職してからも、少しの間は、大学の時の彼氏と連絡を取り合っていたけど。
だんだん、こっちからラインしても電話しても繋がらなくなっていって……。
寂しいなって思いながらも、初めての仕事を覚えるのに一杯で、そのうち気にならなくなっていった。
でも、もしかしたら、それは。
佐倉さんが、いつも仕事の面で支えていてくれたことが大きいのかもしれない。
そんなことをふと思いながら佐倉さんを見ていると、私の視線に気づいた彼が、こちらを見てくる。
「何?」
そう言われて、慌てて視線をずらした。
「いえ、何も」
それよりも、あのバーに電話して、私の社員証があるかどうか確認しなきゃ。
「あの、ちょっと電話してきます」
私は席を立って、フロアを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます