【短編】テストと僕と君のシャーペン

ぽんちゃ 🍟

だいいちわ



 俺は、馬鹿だった。


 先生のはじめという声とともに、紙を捲る音がする。



 一歩出遅れるが、俺も目の前の問題用紙を開いた。俺の音は皆には及ばず、どこにも聞こえない。


 そして、固まる。



 テストの問題用紙はある。解答用紙もある。だが。


 シャーペンがない。消しゴムもない。テスト当日なのに筆箱一式を家に置いてきた。



 俺は馬鹿だ。大馬鹿者だ。誰かに借りればよかったのに、そういうことも言えないし、第一そういうキャラじゃない。コミュ障であんまり人と話せなくて、貸してという言葉も出てこなかった。



 どうしよう。どうしたらいい!!



 とっとりあえず、なにか書かなきゃだよな。なにで書く? 爪? 無理無理無理俺そんな爪伸ばしてないし、昨日切ったばっかだし!



 じゃあ、なにも書かずに出す? あきらめる? で、次の理科で挽回する? 


 ええいや理科さいこうに苦手じゃん!! というか、今回いちばん力を注いだ社会がなくなったら俺は終わり、あっでも国語がある、ああ社会には劣る!!



 先生に言うしかない? 先生に言ったらどうなる、なんて言う? 鉛筆くださいって言うのか? 俺が!? 無理だ絶対、俺は無理だそんな恥ずかしいことできない……埋まりたい…。



 先生って誰だ。先生……は? 越前? 


 だめだめだめアイツに言ったら一生の笑いものにされる。あの人、人の嫌な話を授業でバリバリ話すぞ99.9%の確率で俺のも言われるぞ。廃案だ。



 隣の人に貸してもらうか。どうやって。机叩くか? それカンニングじゃね、でも越前なら気づかないかもしれない。


 待て、隣って…誰だ?


 えっと、あっと、右が立花たちばなさんで、左が吉岡よしおかさん…。


 どっちも女子だぁぁぁしかも真面目。立花さんは去年もクラス同じだったから置いといてだけど、吉岡さんとはほとんど喋ったことがない。


 じゃあもう、立花さんに頼むしか。ここは土下座をしてでもって、、、は? え? マジかよ立花さん机にシャーペン置いてなくね!? 使ってるのしかないのか。でもシャー芯あるから芯だけ借りる? いや俺折る自信しかないぞ、廃案だ。

 


 いや、もう、無理じゃ……



「ん」



 ん?


 その、右手に乗ってる物は、



 青くてシンプルなシャーペンと、俺も愛用の柔らかめの消しゴムだった。


 それは、俺に貸してくれるというのか? 俺に? 本当に?



 やばい、越前が気づいてしまう。


 違ったら果てしなく死にたくなると思うだろうけど、この場合俺以外にシャーペン渡す人いないだろう。



 だったら。


 賭けに、出てみるべきじゃないか。



「ありがとう」



 その細い手から、シャーペンをそっと受け取った。

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