第4章 座敷牢
第14話
これは、私が最近体験した怖い話です。
私は私立校に通う女子高生なのですが、休日に仲の良い男女のグループ5人で肝試しに行く事になりました。
夏休み前の試験が終わり、涼しさを求めて何処かに行こうという話になって「それなら肝試しでいいんじゃね?」という男子の軽い一言から決定しました。
反対した私ともう一人の女子でしたが、他の男子二人がノリ気だったのと心霊スポットがどういうものなのか興味もあったので……。
まぁ、ちょっと怖いけど楽しそうだしいいか。
その程度の気持ちでした。
休日。
早速集まった私達5人は、電車で隣町へと向かっていました。
その場所は誰も住んで居ない廃屋で、特に事件や事故があったとかそういう曰くも無いそうです。
しかし長年放置されていたその家は、雰囲気も相まってかいつしか心霊スポットと噂されるようになり、私達のような若者が無断で出入りするようになったそうです。
それなら少し不気味だね、くらいで終わるのですが私達は深く考えていませんでした。
どうしてその場所が"心霊スポット"と呼ばれているのか。その理由を。
そこに辿り着いた時、首筋に何かが這った様な感覚がしました。
庭先は侵入者を拒むかのように雑草が生い茂り、木造の壁にはびっしりと蔦が張っていて不気味な感じです。
それは加奈も感じたようで、ああ、加奈というのはもう一人の女の子です。
とにかく「やっぱりやめようよ……」と頻りに怖がっていました。
けれど折角来たんだからという男子達に押されて、私達は嫌々ながらもその家に入りました。
立て付けの悪い戸を開けた瞬間に舞い上がった埃に私達は噎せます。
玄関先には何人もの人が出入りしたような足跡が、積もった埃の上に残っていました。
男子達は何が面白いのか無駄に大きな声を上げて一階の散策を始めました。
手前から座敷部屋が二つ、奥にはリビングとキッチン。
リビングの脇には小さな風呂部屋があります。
確かにどの部屋も薄気味悪く感じましたが、これといって怖いものはありません。
「二階も見てみようぜ!」
と言った男子の一人が、座敷部屋とリビングの間から伸びる階段を上がっていきました。
続く二人の男子達に、私と加奈は呆れながらも着いていきます。
二階まで上がって一つ目の部屋に入った瞬間、私は悲鳴を上げそうになりました。
窓が無いのです。
正確には、窓には太い木の板が打ち付けられていて機能をしていない。
日中だと言うのに深夜のように暗いその部屋で、私達5人は揃って息を飲みました。
――――ドン
階下から、突然物音がしました。
「い、いまの音は何だ……?」
「――ここには俺達しか居なかったよな?」
「もう無理ぃ!!やっぱり帰ろうよ!!」
男子達は狼狽し、加奈はついにその場に座り込んで泣き始めました。
混乱の中、肝試しを提案した男子が「――ちょっと見てくるわ!」と言い残して階段を降りようと部屋を出ます。
しかし、彼は階段まで駆け寄るとその場に立ち止まってしまいました。
「おい、どうしたんだよ?」
男子の一人がその肩を叩くも反応が無く、彼は青褪めた顔で一点を見つめています。
――――その視線の先には、先程まで存在しなかった筈の小さな人形が落ちていました。
「なに?!何で?!?!」
「いやぁぁあああッ!!!!」
瞬く間にパニックに陥った私達。
その信じられない現象に全身の震えを抑える事ができませんでした。
階段の真下を塞がれては、逃げ場がありません。
「もういい!!窓から出るぞ!!」
そう言った男子の言葉に私達は震えながらも頷き、別の部屋の窓からの脱出を試みました。
しかし、どの部屋の窓も、内側から木の板が打ち付けられていて出口なんてありません。
「どうなってんだよこの家は――!!」
くそっ!と悪態を吐いた男子は木の板を殴りましたが、ビクともする様子はありませんでした。
「おい、――――人形が無くなってる」
階段の方から、別の男子の声が聞こえます。
その言葉通り、先程まで階段の下に落ちていた人形は姿を消していました。
私達はすぐさま階段を駆け下り、玄関へと走ります。
―――――きっとバチが当たったんだ
逃げながら、私は誰に謝罪するでも無く心の中で思いました。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――。
玄関先から溢れる日の光に、私達は心底安堵したのを覚えています。
「やった!!出られるぞ!!」
その男子の声に一層足に力を込めて、私達は出口へと向かいました。
―――良かった、出られる!!
そうしてその家を出た瞬間、私はふと後ろを振り返りました。
そこには、性別も判断出来ない程、顔面を大きく抉り抜かれた小さな子供が立っていました。
『 ト ト ト ト ト ト 』
――――――――
――――
――
その、不規則なリズムを伴った音が、今でも頭に張り付いて離れません。
私以外の4人はそんな物見ていないと言います。
しかし、私は、私だけは確かに見ました。
――――そしてその音は、今も夢の中でも
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