ファンタジー恐怖症用務員 異世界で泣く

安志

第1話 用務員泡を吹く

 その日、佐藤大志さとうたいしは日記に「この日は人生最悪の日だ」と記録した。


 今日は俺が働いている学校の文化祭の日であり、俺は今後片付けの真っ最中であった。

「ごみは分別して捨てろよー後で分別してめんどくさくなるのはこっちなんだからなー」

 と言っても聞かない奴らはさっきからごみを丸めて投げて遊んでやがるし、適当にごみを捨ててやがる・・・後でちゃんと分別して捨ててるのは俺と一部の生徒、教師なんだから関係ないってことか?

 とりあえず、期待はしてないけど注意をしておこうか。

「おーいそ「おい!!分別をしろと言っているだろう!そしてそこ!ごみを丸めたりして遊んでるんじゃない!全然掃除が終わらないだろう!」この・・」

 さすが堅物で有名な風紀委員長の石田裕也いしだゆうや君、俺が注意する前に言ってくれたのはいいけど、急に隣で大声を出さないでほしい耳が痛い。

「うわっ、うるせえのに見つかった!逃げるぞ!」

 まあ、そのおかげで散らかされる心配はなくなったから助かった・・・痛いけど


 数時間後、分別したごみを集め終えた俺と生徒たちはゆっくりと休んでいた。

「用務員さんお疲れさまです!」

「あ、ありがとう。と言っても用務員としては当然のことをしただけなんだけど。」

「いえ、あなたがいつもごみを捨ててくれたり、きれいに掃除をしてくれているのは知っているのでそのお礼を言っただけです。」

 なんて律儀なんだこの委員長は、ちょっと嬉しくて泣きそうになってしまったよ。

 そして、彼と少しばかり話をしていたら、俺の友人の英語教師が歩いてきた。

「ヘーイ、タイシ、このあとはタイシのハウスでディナーをふるまってくださーい」

 こいつはケビン・フランク、日本の伝統文化や現代文化が好きなアメリカ人の教師だ。俺の先祖が武士で、家に刀があることを教えたらすごく目を輝かせてハイテンションになっているのを今でもすごく覚えている。

 そのようなことがあって、彼を家に招待して刀や茶器をよく見せており、飯も良く作って一緒に食べていたりする。

「じゃあ今日は、蔵から見つけた絵画があったからそれを見せてやるよ。」

「ホントウですか!キョウはスゴクにラッキーです!」

 さて、あとは帰る準備をしようとした時、全身にすごい悪寒を感じた。そして、その場から逃げようとしたが遅かった。ここ周辺のスペースが光るおぞましい紋様魔法陣に包まれていた。

「なんだこの光は!誰かが蛍光塗料でらくがきしたのか!?」

「みなさんダイジョウブですか!!」

 石田君とケビンは生徒たちを心配していたが俺はもうそれどころではない。なぜか昔からファンタジーの小説や絵を見たりすると全身に悪寒が走り眩暈と吐き気を催してしまうのだ。というか、今耐えてるだけでもつらいし涙も出てきた。

「これって・・・もしかして異世界召喚か!?」

「まじか!!これでチートもらってケモミミハーレムができるぜ!」

「お父さーん!!お母さーん!!助けてー!!」

 なんか喜んでる奴や、パニックになってる奴がい・・る・・・限界・・

「用務員さん!?顔が真っ青でやばいですよ!大丈夫ですか!!って倒れた!?」

「アワをクチからフいていますよ!!」



               <石田視点>

「ようこそいらっしゃいました、異界の方々。私は女神ミスト。あなた方はこちらの世界の国々に魔王を倒す勇者として召喚されました。」

 急に視点が変わったと思ったら、目の前に女神と名乗る銀髪で長髪の女性が話しかけてきていた。しかし、なんという破廉恥な格好なんだ。生徒たちの風紀が乱れてしまう。

「あなた方は平和な世界にいたために戦う力がないと思います。なので一人一人に特別な力を~」

 僕は、そんなどうでもいい話を聞いている暇はなく、先ほど倒れてしまった用務員さんの容態を見なければならないのだ。幸いケビン先生も用務員さんも近くにいたみたいですぐに合流できたが、用務員さんは顔面蒼白で、白目をむき泡を吹いて全身痙攣けいれんしながら倒れてしまっていた。

「あの~大事な特別な力を授けるところなので話を聞いてくださいませんか?」

「すみませんが、貴方のような破廉恥な服を着た人の話を聞いている暇はありません。」

 その言葉を聞き、女神と名乗る女性は自分の今の服を理解したのか、顔を赤くして体を布で隠していた。うん?いい事をしたはずなのに周りからKYだの空気読めという言葉が聞こえてきたのだが、おかしいのはあちらだろう?

「オホン、特別な力は一人一人話を聞いて付けなければいけないので・・・って、なんでその人は顔面蒼白で泡を吹いて倒れているのですか!?大丈夫ですか?今回復魔法をかけてあげま・・・さらに悪化したーー!!?」

「用務員さーん!?」

「タイシー!!」



 用務員さんが目覚めるのは、僕らを心配した一人以外に女神が力を与えて送り出した後であった。

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