エス・エクソシスト 著:霜月セイ
角川スニーカー文庫
プロローグ
真夏の生温かい風が頬を撫でる。
小さな生物のかすかな気配一つしない、静寂に恐怖を覚えながら二人の少女が廃屋を前に佇む。互いに中学を卒業して以来会う事はなく、今日が久々の再会である。といっても周囲はどう思っていたかは知らないが、自他ともに認める優等生と派手な印象を与えるもう一人の少女は正反対の人種であり、仲が良かったとは言えなかった。互いに違うグループに属していたため、共通点といえば、ここへ訪れる理由くらいだ。
「やっぱり、マリミちゃんにも届いたんだ」
「じゃなきゃここに来てねえよ。そういう
恐怖からか、マリミは苛立った口調で希美との会話を終わらせる。
数年前まで在籍した中学校、
棟という程の規模ではない、一階建ての小さな建物。
今では廃屋と化し、再利用される事も取り壊される事もなく、ただ存在だけしている。
在学中も、怪談じみた噂はよく耳にし、滅多に人は近付かない。
――それだけじゃないか。だって、この場所は……
と、希美は至る所に折れた跡の残る古ぼけた手紙に視線を落とす。そこには、「
同じものを、マリミも握り締めていた。それを一瞥した後、マリミは差し出し人の名前を見る。少し癖のある字で、「えんどう せいじ」と書かれている。その字を見ていると、字自体が変化してとぐろを巻いているような錯覚に陥り、マリミは目を逸らす。
そして、大事に持っていた手紙を突然破き始めた。
「ちょっと!」
「うるせえな! こんな紙切れ一枚に振り回されて、バカみたい!」
と細切れになるまでマリミは手紙を破いた。
「公表出来るものなら公表してみろってんだ。どうせ過去の事だし、あの時マリミ達中学生だったし。ばれたところで何ともなんねえよ。大体、何でマリミ達ばかりがこんな目に遭うわけ? あれは全員やっていた事だし。それに、最初に始めたのは野球部の連中で、マリミは……」
と、そこまでマリミが言った時だった。突然廃屋の扉が開いた。
ぎぎぎ、と金属音と共に開いた扉は再び閉じた。そしてまた不気味な音を響かせては開き、閉じる。それが何度も繰り返された。
「ど、どうせ風が……」
そこまで言いかけてマリミは気付く。周囲に一切風が吹いていない事に。それだけではない。虫の鳴き声一つなく、周囲は完全に静寂に包まれていた。
「あ、あ、あ……いやあああああ!」
希美が走り出した。
「あ、待てよ! 置いていかないで!」
それに倣いマリミも続く。幸いこの雑木林は校舎に近い。いくら遅い時間でも、誰か一人くらいはいるだろう。そう思ったマリミは希美の後を追う形で走った。
が、刹那――後ろから何かが落下した大きな音がした。
「……っ」
それはすぐ真後ろから響いた。おそるおそる振り返ると、自分の足跡をなぞるように小石が並んでいた。まるで誰かが自分めがけて石を投げつけたように。
「何だよ、これ。これじゃあ、まるであの時の再現じゃない」
そう呟く間も石は次々に落下し迫ってくる。ついには追いつかれ、小石が腕を掠った。ただの小石なのに、随分な重みを持っており、掠った箇所から熱がこみ上げる。
先に走り出していたマリミはそのまま元々運動が苦手だった希美に容易に追いつき、先に走っていた筈の彼女をマリミは追い抜く。その間も石は追いかけてくる。その内の一つが当たったのだろう。希美が「痛い」と叫んだ。が、他人に構っている暇もなく、マリミは後ろを振り返らずに前だけを見た。
「待って、マリミちゃ……」
後ろから希美の指が微かにマリミの腕を掠った。追われる恐怖から頭が真っ白になったマリミは悲鳴を上げて腕を振るった。その反動で、希美が転倒した。
「待って! 私達、同罪でしょ!? 逃げないでよ! 一人だけ助かるなんて、ずるいよ! ねえ、待ってったら!」
悲痛な希美の声に答えず、マリミは雑木林の奥へと姿を消した。その間も石は確実に二人を追いかけ――最後に、雑木林の奥で少女の悲鳴と何かが潰れる音が響いた。
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