遠賀原くん、部活動チャレンジ!

針野六四六

第0話

 ついにこのときが来てしまった。

 高校二年目にして、記念すべきまともな登校日初日。その放課後だ。

 憂鬱も憂鬱だ。肩にどっしりと不可視の重圧が掛かって悪霊の存在が疑われている。いつもはスキップして帰宅するだけの時間だが、今日は帰れないのである。不本意なことに。まこと不本意なことに。

 事の発端はと言えば、まずは十日前、一年振りにスマホが鳴り響いたのがそうだろうか。もちろん得体の知れない迷惑メールなどで鳴ることすらも無かったってことは無いので、正確には『久方振りに本来の仕事を果たしたスマートフォン』と言うべきだろうが。

 そう、人間からメールが来たのだ。俺は我が眼を疑わずにはいられなかった。

 通知欄に光る『笠置かさぎ』の文字。少なくとも半年ほどは会話をしていない相手である。もうこの時点で嫌な予感はしていた。

 笠置ナニガシ。下の名前は全く覚えていないが、そいつと俺は同じ新二年生であり、さらには部活まで俺と同じでありながら、それでもなお説明に『他人』以外の語句を用いることの出来ない間柄にあった。

 というのも俺は幽霊部員で、教室の違う笠置相手に話しかけるような性格もしていなかったから、当然だろう。接点はあるように見えても幻だ。笠置と俺が交わした言葉などせいぜいが挨拶と、半年ほど前の応酬一つぐらい。笠置の『遠賀原おがわら、お前文化祭参加するか?』という問いに『あー、俺その日風邪引く予定だから』と妙な返事をした一幕のみ。

 そんな相手から一体何なんだと恐る恐るメールを開いてみれば。

 『遠賀原、悪いが四月の活動、やってくれないか。詳細は電話で、090-****-****に都合の良いときに掛けてくれ』と、そんなことが買いてあった。

 『断る』と返信した。何、繋がりの薄い同い年の男だ。遠慮などすることは無い。

 『call me plz 090-****-****。頼むよ本当に頼む、せめて話だけでも聞いてくれ。別に断ったら何かあるってこともないし受けてもらうメリットなんて用意できないけど事情があるんだ、お前しか居ない』

 尋常では無い勢いだった。俺は怯えた。

 電話を掛けた。押し付けられた。俺はとても弱かった。

 分かってはいたのだ。本気で頼まれたら俺には断ることなどできないと。だって日本人はだいたいそうだろう。きっと、そう、これが普通なのだ。そして普通なら、それは仕方ないじゃないか。

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