『五十円玉二十枚の謎』ネタバレありレビュー
「いらっしゃいませ」
「読みましたよ。『
レジカウンター前まで行くと、僕はすぐにそう言った。
「面白かったですか?」
「もちろん。それに、面白いというよりも、今回は感心してしまいましたね。よくぞあの無理難題とも言える謎に、これだけの『回答』を出してきたなと。やっぱりミステリ作家って凄いですね」
僕が語る感想を、谷藤さんはいつものように、嬉しそうな顔で頷きながら聞いてくれている。僕は続けて、
「面白いなと思ったのは、『回答作』に結構な割合で、『こういった謎が誌面に載っていた』という、いわゆるメタ視点からの作品が多かったことですね。数えてみたら十三編中の実に半分近い、六編がそういった『メタ設定』を使った作品でした。ちょっと多すぎでしょ。他とは違うものを書いてやろうっていう、ミステリ作家特有のひねくれ具合が垣間見られて、何て言うか、微笑ましかったです」
「
「そ、そうですか? いつも谷藤さんに鍛えられてるからかな? あ、それじゃあついでに、ミステリ読みとして意見を言わせてもらえばですね、
「うまく逃げましたよね。あっ、逃げるとか言っちゃ悪いですね。法月先生、すみません。ああいう、謎が完全に解明されないまま余韻を残して終わるのは、『リドル・ストーリー』っていう立派な手法のひとつなんですよ」
「ああ、確かにあれは、謎が解明されなくて怒るというよりも、そう来たかーって、ある意味納得させられましたからね」
「永城さんは、どの『回答』が一番お好みでしたか?」
「そうですね……やっぱり、
僕の例えがおかしかったのか、谷藤さんは、あははと声を上げて笑った。
「あとは」と僕は続けて、「
「そうですね。一般公募作の中では、
「高橋謙一名義の作品ですね。あれも面白かったです。五十円玉を〈物体〉として扱った異色作でしたよね。やっぱり、プロになるっていう人は、アマチュア時代から別物っていうか、作品に力を感じました」
「ところで、永城さんも、この謎の自分なりの答えを考えてみたりしませんでしたか?」
「訊かれると思ってましたよ。もちろん考えました」
「やっぱりですか! 教えて下さい!」
谷藤さん、両拳を握りしめて、爛々と目を輝かせてきた。
「わ、笑わないで下さいよ。あくまで素人の
喋り終えると僕は、ふう、と大きく息をついた。谷藤さんは、
「永城さん、凄いですね! 荒唐無稽な説じゃなく、あくまでリアルな可能性を出してきたのが永城さんらしいです」
と言いながら拍手をしてくれた。
「はは。あまりに当たり前すぎて、ミステリとしては全く使えませんよね、それに、その犯人の仕事が両替機のおこぼれ狙いだけじゃ、週給千円ということになって、いくら何でも食べていけるわけないですしね……」
変な話をしなければよかったかな? と少し後悔した僕は、
「そ、それじゃあ、また……」
帰ることにして
「いらっしゃいませ」
谷藤さんの声が僕の肩越しに掛けられた。客? この谷藤屋に、僕以外に? 咄嗟に振り向く。そこに立っていたのは、ぱっとしない顔つき身体つき、身なりをした、中年の男だった。私見を言わせてもらえれば、あまり本屋には縁がなさそうなタイプ……。
男は、両側の壁に設えられた書架には目もくれず、まっすぐにレジに向かってきて、
「千円札と両替してください」
握っていたものをずらりとカウンターに並べた。
なにっ……?
僕は、男がカウンターの上に置いたものを視認すると、心の中で叫び、ごくりとつばを飲み込んだ。
それは銀色に輝く二十枚の五十円玉だったのだ。
(次回 特別編『谷藤屋と五十円玉二十枚の謎』に続きます)
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