新世代が贈る次代の本格『ノッキンオン・ロックドドア』青崎有吾 著

『ノッキンオン・ロックドドア』プレビュー

永城えいじょうさん、重いミステリが続いたので、今回は少し軽めなもので行きましょうか」


 開店していた谷藤たにとう屋を訪れた僕は、さっそく谷藤さんから今回のおすすめミステリを紹介された。


「今回は、これを読んでみてください。青崎有吾あおさきゆうご 著『ノッキンオン・ロックドドア』です」

「おお、何だかお洒落なタイトルですね!」


~あらすじ~

 不可能(HOW)専門の御殿場倒理ごてんばとうり、不可解(WHY)専門の片無氷雨かたなしひさめ。二人の探偵が営む探偵事務所『ノッキンオン・ロックドドア』に、謎を抱えた依頼人が今日も舞い込む。

 画家が密室のアトリエで殺害された。しかも、アトリエの中には、画家が描いた六枚の風景画が額縁から外されて床に放られており、そのうちの一枚は真っ赤な絵の具で塗りつぶされていたのだった。密室|(HOW)と塗りつぶされた絵画|(WHY)の謎を、御殿場と片無は解き明かすことが出来るか?


「この作品は短編集なので、ご紹介したあらすじは、第一話『ノッキンオン・ロックドドア』のものです。全部で七話収録されていますよ」

「短編集を紹介してもらうのは初めてですね」

「そうですね。じっくりと読ませる長編もいいですけれど、限られた紙幅で謎を鮮やかに解決する短編にこそ、ミステリの醍醐味はある、と考えている人も多いですよ」

「なるほど。短編なら気軽に読めますしね」

「この作品の作者である青崎有吾は、『体育館たいいくかん殺人さつじん』で第22回鮎川哲也あゆかわてつや賞を受賞したミステリ作家です。このとき何と、若干二十歳! 平成生まれの新鋭! 将来のミステリ界を背負って立つこと間違いなしの、今もっとも注目されるべき小説家です」

「二十歳でミステリを書いて、しかも賞コンテストで受賞するとは凄いですね! どんな作品を書く作家なんですか?」

「それはもう、バリバリのド本格ですね。今どき珍しい」

「そうなんですか。じゃあ、この『ノッキンオン・ロックドドア』も?」

「はい。七編全てに魅力的な謎が提示され、それが見事に解決されます。清潔感が漂うくらいの美しい論理が炸裂する短編集ですね。しかもですね、登場キャラクターが個性的で、キャラクター小説としての楽しみ方もできるんです。ミステリでキャラクターで、しかも七本も入っている。こんなにお得な本は、なかなかないですよ」

「キャラクターって、探偵役の二人ですね」

「ええ。御殿場と片無の二人はもちろん、捜査一課の穿地決うがちきまり警部補。あ、この穿地警部補は女性ですからね。それと、探偵事務所のアルバイト、女子高生の薬師寺薬子やくしじくすりこちゃん。個性的で楽しい人たちばかりですよ」

「何だか皆さん、名前も個性的ですね」

「作者が若いから、こういったネーミングセンスも絶妙なものがありますね。文体も軽快で、台詞も気が利いている。若い読者、それも若い女性に人気が出ると思いますよ、このシリーズは」

「若い女性、ですか」

「はい。永城さんも、お友達の女の子にお勧めしてみてください」

「えっ?」

「はい?」


 僕と谷藤さんは、黙ったまましばし見つめ合った。谷藤さん、眼鏡の向こうで大きな目をぱちぱちさせている。


「もしかして、永城さん」

「な、何ですか……?」

「女性のお友達、いらっしゃらないんですか?」

「なっ! そっ……そんなことありませんよ! 大学に女友達くらい、大勢――いや、何人かいますよ!」

「そうですか……女の子のお友達、いらっしゃるんですか……」


 そう言うと谷藤さん、声のトーンを落として目を伏せた。


「えっ? えっ? い、いえ、いるといってもですね……」

「お買い上げいただけますか?」


 がばり、と谷藤さん、一転、顔を上げてきた。


「は、はいっ!」


 反射的に僕は返事をしてしまう。「では」と谷藤さん、笑顔になってレジへ向かい、いつもの手さばきでカバーをかける。代金と引き替えに僕は本を受け取った。手が少し震えていたかもしれない。最近ペースを乱されっぱなしだぞ。しっかりしろ、永城げん

 笑顔で手を振る谷藤さんに手を振り返し、店を出た。僕のほうは笑顔だったかは知らない。引きつった顔だったのではないかと思う。多分……。

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