第17話
ロイド歴三八八二年八月初旬。
あれから大変だった。
キシンにコウちゃん、それにソウコまでやってきてギャーギャー騒いでいたし、ソウコなんて泣きじゃくって収めるのが大変だった。
コウちゃんは俺の護衛をしていたダンベエたちに「ソウシン殿を守れず、なんの護衛かっ!」と腹を切らせようとしたが、ダンベエが居ないと俺が困ると何とか宥めた。
だが、主を守れなかったのも事実であるとキシンがダンベエを始め護衛たちを謹慎処分に処した。無罪放免とはいかない事は俺も分かっていたので謹慎期間を八月一五日までとする事でキシンと話を付けたのだ。
九月には出兵が控えているのであまり長く謹慎にはできなかったのが幸いして短期間にできた。
まぁ、日頃から俺に出歩くのを控えるように苦言を呈していたダンベエたちにこれ以上重い処分を科すのは俺の良心も痛むからね。
俺はと言うと落馬時に左手側に落ちたようで左腕を骨折していたが、流石にもう骨も繋がっており問題はない。矢が刺さった左肩の方は多少の違和感があるが、動かす事はできるし痛いというほどの事もない。
だが、あの白い空間でオバサンが言っていたように俺の職業に変化が見られた。しかも明らかに今までの【創造生産師】から変質し過ぎの職業だ。そして職業の変質に伴ってスキルも大幅に変化してしまっている。もう、本当に凄い変わりようだ。
氏名:ソウシン・アズマ
年齢:一二歳(ロイド歴三八七〇年五月五日生まれ)
性別:♂
身分:ミズホ国守アズマ家長子
職業:【神生産師】レベル一(五〇三/一〇〇〇〇)
能力:HP一〇〇〇/一〇〇〇、MP五〇〇〇/五〇〇〇(五〇〇〇〇〇/五〇〇〇〇〇)
スキル:【神眼】【神生産】【神育成】【神探索】【MP神補強】【神人形生成】
レベル一:【神眼】対象の詳細情報を入手しできる。対象を威圧し行動を阻害する。任意の範囲に結界を張る事ができる。
レベル一:【神生産】想像上の物質や道具を含めた物質や道具をMPを代償にして生産が可能。生産する物によってMP消費が変動する。
レベル一:【神育成】対象に成長補正を与える。自分には無効。成長させる対象や成長の度合いによりMP消費が変動する。
レベル一:【神探索】自分を中心とした周囲の地形を表示し、その範囲内に存在する全てを把握できる。
レベル一:【MP神補強】消費MP削減大。MP回復量増大。MP一〇〇倍。
レベル一:【神人形生成】任意の材料で自立型自動人形を作成する。使用する材料と消費したMPによって自立型自動人形の能力が変動する。
どう考えてもおかしいだろ? これを見た時の俺の衝撃を分かってくれるだろうか? 一時間はまんじりともしなかったと思う。 まぁ、動こうと思っても動けなかったんだけどね。
オバサンの話し方から職業は弱体化方向に変化すると思っていたが、まったく逆で強化される方向に変化してしまった。まさかとは思うけどオバサンが俺の幸せを願ってくれた効果なのだろうか、と思ってしまう。
暫く寝たきりで暇だったので職業のレベル上げと機能の把握も兼ねて【神眼】を使いまくった。
【神眼】は幾つかの機能があり、先ずは情報を入手できる【鑑定】のような機能だが。この機能そのまま【鑑定】だった。だから特に言う事はない。但し、思った以上に情報の詳細が分かるようになっていた。
【威圧】の方は簡単に使えるような物ではないので置いておいて、【結界】の方は凄く使い勝手の良いものだった。
【結界】は見えない壁を創る機能なのだが大きさや形は自由自在だし【結界】によって阻む事ができるものも様々で物理的に人を阻むだけではなく、気体や液体だって阻める。対象を指定すればそれを全て阻んでくれるかなり有用な機能だ。
他のスキルに関しては確認を含めて保留している。ぶっちゃけ使うのに勇気がいるんだよ。そろそろ検証をしようとは思うけど、まずはミズホ酒と麦焼酎に味噌、醤油を生産しなければいけない。在庫が底をつきそうなのでミズホ屋とイズミ屋も心配しているそうだ。オンダの経済封鎖に協力をしてもらっているので約束通り提供してやらないといけない。それと直ぐにではないが俺が居なくても生産できるようにしておこう。杜氏や味噌職人を育てるのには時間が掛かるだろう。気長に育てるしかない。
ロイド歴三八八二年八月下旬。
アズ姫の件だが、あの後俺とアズ姫の距離はかなり縮まったと思う。今では朝と晩の食事は一緒に食べているしアズ姫は俺に顔を隠さなくなった。美人なんだからしっかりと俺に見せつけてくれと頼んだ時は流石に頬を赤く染めて盛大にパニクっていた。可愛らしかったのでしっかり眺めていたらハルに追い出された。解せぬ。
今では・・・
「はい、あーーーーん」
「あーーーーん」
アズ姫にあーんをしてもらっているのだ。どうだ、羨ましいか!
「若、そろそろ評定を行いますれば……」
「何だもうそんな時間か? 仕方ない、アズ姫ちょっと行ってくるぞ」
「はい、お早いお帰りをお待ちしております」
部下のリクマ・ナガレが俺を呼びに来たので仕方がなくアズ姫との憩いのひと時を終わらせる。本日の評定は間近に控えたオンダ領侵攻作戦の最終確認の評定だ。
「面を上げよ」
上座に座ると俺を待ち平伏している家臣たちに頭を上げても良いと許可を出す。皆が俺の許可に頭を上げたが、それでも二人が平伏したままだ。
「ダンベエ・イズミ。ゼンジ・ウエムラ。何をしておる、面を上げよ」
『ははぁぁぁ』
この二人は俺の小姓上がりの側近で俺が傷を負ったあの事件の時に警護をしていた者たちを率いていた。つまり俺の怪我について責任を感じているのだろう。
「ソナタらは私の怪我に責任を感じているのだろうが、それは違うぞ。以前にも申したがソナタらは私に忠告をしており、それを聞き入れなかった私にも落ち度があったのだ。私が無防備、無警戒、にしていたのが悪いのだ。ソナタらにも済まぬことをした」
俺は二人に頭を下げた。そうするとザワッと広間内が騒然とする。
『わ、若!』
「分かっておる! だがな、今回は私の為に皆に迷惑をかけた。無能な主君は自分だけではなく家臣の命を短くするとつくづく思い知らされた。これは私の思い上がりへのケジメだ」
「・・・ダンベエ、ゼンジ。若のこの思い、受け止めよ。お主らが何時までも委縮していては若の警護も儘ならんぞ」
『畏まって御座る』
キザエモンが最後に纏めてくれたので俺は評定を進めるようにと促す。評定は俺の家臣団筆頭であるキザエモンが進行させる。
「傭兵は三五〇〇だな?」
「はい、騎馬隊五〇〇、弓隊一〇〇〇、歩兵隊一五〇〇、鉄砲隊五〇〇、の合計三五〇〇人が準備万端出陣を待っております。それと輜重隊一〇〇〇も準備万端で御座います」
「兵糧はどうか?」
「はい、兵糧も準備万端整っております。更に輜重隊には斥候職を多く配置しております」
「矢玉に弾薬はどうか?」
「問題ありません。矢は五万本、鉛玉は二万発、火薬も二万発分、何時でも輸送できます」
他にも決める事は決め、留守居役にキザエモンを配置して後方支援を任せた。
二日後、アズ姫と後ろ髪を引かれるような思いで別れ、六乗山城の館に到着した。到着早々その足でキシンに挨拶に向かうとそこにコウちゃんとソウコも居り俺を迎えてくれた。
「父上、只今参上いたしました」
「うむ、道中変わりなかったか?」
「はい。道も整備しておりますので全く問題ありません」
先ずはキシンに挨拶だ。そして俺はコウちゃんとソウコを見る。コウちゃんは側室とは仲が悪く殆ど会う事も喋る事もないがその子に対してはアズマ家の子として俺たちとわけ隔てなく接している。だからソウコもコウちゃんにそれなりに懐いている。
「母上、今帰りました」
「ソウシン殿、もう体は大丈夫なのですか?」
「全く問題ありません。完治しておりま。ほれこの通り」
俺は左腕を上にあげたり肩をグルグル回したりして完治を示した。
「それならば良いのです。ただ無理はいけませんよ」
「はい」
コウちゃんは今回の出陣にも反対のようであったが、今回の戦いは俺が提示した作戦によってほぼ一年がかりでオンダ家に経済封鎖を仕掛けた総仕上げなので俺が出向かないわけにはいかない。
「ソウコも息災で何よりだ」
「ソウコの事より兄様のお体です! あれほどの大怪我をしたのです。出陣なんてせずに館にて体をお安めになって下さい!」
俺も戦になんか出たくはないけど、それは無理だよ。六乗山城に来た最大の理由はオンダとの戦いの為なんだよ。今更オンダとの戦いに俺が出向かないわけにはいかないさ。
それにオンダを滅ぼす、滅ぼさない、どうなるか分からないけど、今回の戦いの結末を見届けるのは俺の責務だ。多くの人が死ぬ作戦を立てた俺にとって決して簡単に済まして良いものではないのだ。
「ソウコ、私は今回の戦いの結末を見届けなければならぬのだ。大丈夫だ、体は完治している。それに生産職の私は前線に出る事はないだろう、私も死にたくはないからな」
勿論、これはソウコを安心させるための方便だ。前線に出ない保障なんて無い。前線に出なくても敵が奇襲なりしてきたらどこが戦場になるか分からないのだし。
だが、俺は死ぬ気はない。生きて帰って愛おしいアズ姫に会うのだ!
その後、ソウコを宥めている内にコウちゃんも構って欲しそうにしていたので構って食事を摂って布団に入った。
翌朝も早朝からソウコがやってきたしドウジマルを連れたコウちゃんもやってきた。今日はまだ暇があるので皆の相手をして過ごした。本番は明日で、明日は全軍が出陣する。
俺の軍が三五〇〇、キシンのアズマ本家軍が四五〇〇、家臣たちの軍はそれぞれの直臣だけなので数百程度だ。家臣たちの軍が少ないのはこれから収穫期を迎え農民を徴兵できないためだ。
だが、これで良い。農民に負担を与えるのは得策ではない。それに俺の軍三五〇〇を全て俺の直臣が統率できるかと言えばできない。俺の直臣は基本的に若く戦の経験もほとんどないためだ。だからアズマ家の家臣たちに俺の兵を与え指揮させる事になる。それはアズマ本家の兵も同じだ。
これは当初の予定通りなので今更慌てる事はない。
さぁ、出陣だ。
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