第112話 一夜を共にする俺

 目が覚めると俺の腕枕に寝ているルクサーナがいた。

 俺もルクサーナも真っ裸だ。昨夜は自失呆然として言うがままだったが、がつまりはそういうことだ。


 ルクサーナも一緒に目を覚まし俺の顔を見ると微笑んできた。


「起きたのね。おはよう」

「……おはよう」

「どうだった?」

「……どうだったとは?」


 ルクサーナは俺の目を意味深に覗きこんできた。


「ふふ。私との夜のこと。……前世以来ね」

「そういえば胸が大きくなったな〜」

「バカ。 ……そもそも体も違うけど前は病気でガリガリだったからね」

「……」

「あの時、私は何を考えてたかわかる?」


 ルクサーナは顔を俺の胸に押し付けてきた。


「私はね。 ……貴方に殺して欲しいと考えてたのよ」

「なっ!」

「生きるのに辛かったのよ。痛くて苦しいくて。……治るなら我慢も出来たかもしれないけど治らないことは知っていたしね」


 俺の胸が濡れた感じがする。ルクサーナが泣いてるのか……?


「貴方に殺してもらえればこの苦しみから解き放たれる。そして貴方の心に一生残ってくれるでしょ?」


 俺は優しく頭を撫でながら続きを待つ。


「……そうもいかないのはわかってるわ。でもね。もう二度と同じ苦しみを味わいたくないの」


 そう言うとルクサーナは立ち上がり容姿を整え始める。


「ごめんなさいね。朝から湿っぽくしてしまって。さあ、朝食を取りましょう」




 俺は窓が無い狭い部屋に案内された。


「今日から数日間はこの部屋にいてちょうだい。出歩けないけど我慢してくれるかしら」


 ルクサーナと朝食をとると狭い部屋に置かれたテーブルで話し始める。

 その部屋の中にはドール達も置かれていた。襲撃で過半が壊れてしまったがまだ30数体は残っている。


「この人形達であとひと仕事して欲しいの。この国の王族と隣国の王族を暗殺してくれない?」


 ルクサーナは無表情で、買い物をお願いするように言ってきた。


「……嫌とは言えない?」

「そうね。昨日も話をしたけど、主導権を握らないとこの争いは終わらないの。より多くの人が死ぬわ。これで終わりよ」

「……なあ。こんなことやめてさ。……俺と一緒に隠れ住まないか? 贅沢言わなければ快適に暮らせるぜ? 畑も作れるし、狩りの腕もなかなかなもんだぜ?」

「……無理ね。国王は私の教皇としての権威を恐れているわ。逃げてもずっと追われるのよ。それに今、私がいなくなったら混乱でさらに状況は悪くなるわ」


 俺はため息をつくと椅子にだらしなくもたれかかり部屋を見渡した。


「で、暗殺の手伝いしてこの部屋にいればいいのか? いつまでいればいい?」

「……そうね一週間あれば掌握できると思うわ」

「わかった。 ……そういやアルマはどこいったの?」


 ルクサーナの顔が一瞬強張った気がしたがすぐに小さく笑った。


「あの子のことが気になる?」

「まあね。色々世話になったし」

「問題ないわ。同じ建物内で保護してるわ。貴方の情報が漏れると困るしね」


 ルクサーナは事態収拾後にまた来ると言い残して部屋から出て行った。


 ――毒を食らわば皿までも、か。ここまで来たら腹を括るしか無いのか。


 人形を3体残して暗殺の命令を順次下していく。


 ――この3体は残しておこう。


 3体はボツリヌストキシンを含ました針を持たせ、俺、ルクサーナ、アルマの三人を護衛するように命令する。見つかると面倒なので、天井が高い建物の特性を活かして天井にぶら下がるように命令を下す。


 人形達が部屋から出て行くと部屋の扉は俺の意思では開けてくれなくなった。

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